再エネ事例(風車編)

右下©駒井ハルテツク 左下©波崎未来エネルギー


1 波崎未来エネルギー風力発電所 まちづくりのノウハウを市民風車に活かし

2 ウィンド・パワーかみす洋上風力発電所 海岸線の洋上風力発電所、日本の未来に貢献へ

3 株式会社駒井ハルテック(インフラ環境事業部) 長年培った技術力で日本型風車開発、国際支援も


その1

 

波崎未来エネルギー風力発電所   まちづくりのノウハウを市民風車に活かし

市民発電所「なみまる」 ©波崎未来エネルギー
市民発電所「なみまる」 ©波崎未来エネルギー

その1

波崎未来エネルギー風力発電所

まちづぐりのノウハウを市民風車に活かし

茨城県神栖市にある市民風車「なみまる」は地域住民をはじめ全国の市民が出資して誕生しました。高さ約65m、重さ約162t、ドイツ(GE Wind Energy社製)。名づけ親は地元の小学生です。CO2を排出しないクリーンな電力を年間約1000家庭分発電しています。建設したのは「一般社団法人波崎未来エネルギー」。神栖市で海岸清掃や青少年事業など地域活性化活動を行ってきた同NPOが中心に発電事業を運営しています。

 

「NPO法人波崎未来フォーラム」の理事でもある遠藤道章さんは、株式会社港南運輸の専務取締役でもあります。38歳から活動をはじめ現在56歳(2018年取材当時)。次のように語っています。「2004年『取り戻そう美しい鹿島灘、集まれ5千人の仲間たち』と呼びかけ、14台のバスで地元の学生や人たちを集め、清掃活動を行いました。

 

「私たちはこの海岸清掃から学び、一人一人の力を実感し、こうした活動をする団体を作ろうと思いました。はたして億円単位の建設費のお金は調達できるのか? 皆商売をやっているので、お金を借りる苦労は知っていました。リスクを背負ってなんでやらなければならないのだという声もありました。お金も技術もない。でも、一人一人の行動を結集すれば、市民風車の原動力になると考えたのです」。

 

150万円。債務保証をとらない㈱自然エネルギー市民ファンドで集め、「集まったことは衝撃的でした。名前しか分からない、全国の人とつながったのです」。

 

そして、「利益は地域のためいいことに使うので、やらせてください」とお願いして、2007年市所有の駐車場についに完成させました。風車には全国から出資した1000人以上の名前が記載されています。

 

「ちょうど2006年に私たちのいる波崎町と神栖市が合併した頃でしたので、設置交渉には苦労しました」。途中に故障して修理費に1500万円かかったこともありました。やがて、「風力発電が事業化されたことで、自己資金を蓄え、銀行借入ができる信用を得ることができ」て、48kwから500kwまでの太陽光発電所6ケ所を建設、その内1基は100Wのソーラーシェアリングです。建設費合計64600万円。更に、講座活動、東日本大震災の支援活動、波崎自警団と業務連携してパトロール車両を提供するなど、活動を広げています。

 

 

初出「市民発電所台帳2019」 NPO法人市民電力連絡会

写真提供:一般社団法人波崎未来エネルギー (©の利用はご遠慮ください。高橋撮影分OK

 

高橋取材:2019.5.11NPO法人原発ゼロ市民共同かわさき発電所の視察にて

市民発電所「なみまる」には出資者全員の名前が
市民発電所「なみまる」には出資者全員の名前が
市民発電所「なみまる」外部
市民発電所「なみまる」外部

その2 

 

ウィンド・パワーかみす洋上風力発電所    海岸線の洋上風力発電所、日本の未来に貢献へ

©ウィンド・パワー・グループ

その2 ウィンド・パワーかみす洋上風力発電所 

海岸線の洋上風力発電所、日本の未来に貢献へ

 

 「どうしてあえて難しい事に取り組むのか」と、「弊社(株式会社ウインド・パワーグループ)が風力発電所の事業を始めた20年位前には関係機関からよく言われたものです」と「海風が見える丘」で当NPOの視察時に小松崎忍専務は説明してくれました。風力発電にいち早く取り組んだ理由は、「CO2を排出しないエネルギーが必要である。それは地球温暖化がこれ以上進まないようにするには不可欠である」と、そして「エネルギーを通して日本の未来に貢献したい」という崇高なる理想とチャレンジ精神でした。

 

 茨城県神栖市の海岸は日本でも有数の風が良く吹く地域。1年を通じて風が安定して吹いています。神栖市のパンフレット表紙にもウィンド・パワーかみす洋上風力発電所の写真が使われ、「オススメ」所としてこの展望見晴台は「神栖市の海岸線には、日本初の洋上風力発電所を含む、約40基の風力発電所施設があるんだ! 近未来的な景色は、テレビなどの撮影にも使われているよ」と紹介されています。

ここは鹿島臨海工業地帯が隣接し、地産地消につながる電力の大消費地に近いエリアです。海から吹く風は強く、風を妨げる障害物も少なく安定。風力発電機の基礎を海底面に打設するために地盤強度もあります。陸上の風力発電所よりも発電効率が向上して、さらに自社でのO&M(運用および保守点検、Operation & Maintenanceの略)で行うことにより年間稼働率は約95%を超えました。

 

 20094月に建設工事を開始、翌年7月に「ウィンド・パワーかみす第1洋上風力発電所」(出力2,000kW × 7/ 総出力14,000kW、日立製作所製、1基約4億円)を完成させました。113月の東日本大震災では震度6の地震と約5mの津波にも耐え、震災4日後には通常運転を再開しています。133月には第2洋上風力発電所8基(出力2,000kW × 8/ 総出力16,000kW)を稼働。第 2 発電所はあえて海から建設したため1基あたり約48千万円になりました。

 

 風向・風速をキャッチして、風速が25m/Sを超えると自動的に停止し、高い安全性を維持し、また、風速が4m/Sで発電を開始しています。これは日本特有の気候に対応するために開発された大型風力発電機HTW2.0-80の特徴です。

 

しかし、この技術を有した日立製作所は「契約済みの製品の生産が終わり次第、埠頭工場(茨城県日立市)での風力発電機の生産を止める見通し」です。19125日付「日経ビジネス」によると「日本市場は、世界に比べて圧倒的に小さい。17年に世界で稼働を始めた風力発電所の出力は計5250kW だったのに対し、日本はたったの162000kW18年も192000kWにとどまる。日立の製品は『価格が高い』(業界関係者)といわれてきたが、主力の国内市場がなかなか育たない中では、規模の拡大によるコスト削減効果も引き出しにくい」と書かれています。

 

 現在、ウィンド・パワー・グループでは、鹿島港沖合に新たな大規模洋上風力発電所の建設計画があり、「日本の未来に貢献したい」という夢に近づいているようです。

 

取材:2019.9.13

初出「市民発電所台帳2021NPO市民電力連絡会発行

写真:2019.9.13高橋撮影(©以外)

 

 


その3

株式会社駒井ハルテック(インフラ環境事業部)    長年培った技術力で日本型風車開発、国際支援も

非FITの風車・駒井ハルテック富津工場 ©駒井ハルテック
非FITの風車・駒井ハルテック富津工場 ©駒井ハルテック

株式会社駒井ハルテック(インフラ環境事業部) 

長年培った技術力で日本型風車開発、国際支援も

その1 環境と調和する富津工場:非FIT型風車2基、年間約1割の電源を供給

 

 株市会社駒井ハルテックはスカイツリーの部材製作も手掛けた、鉄骨・橋梁の老舗企業。長年培ったその技術力で、インフラ環境事業部は日本の風土にあった独自の中型風車を開発製造し、主に風力発電機の製造による再生可能エネルギー事業、インフラを中心とした海外事業をしております。市民発電所とは縁遠い大企業の取り組みですが、非FIT型の風車、自治体との協力、海外支援とCOPでの日本政府ブースでの発表など、モデルケースになると考え事例紹介しました。

 

 「私たちは風車メーカーでは後発です。世界の風車メーカーは今や大企業。私たちはそうした企業と戦えませんし、戦っても意味がありません」とインフラ環境事業部の豊田玲子さん。「日本の風車の普及はヨーロッパに比べて遅れています。その一因は日本の過酷な地形と気象条件です」。そうした「隙間を埋める」事業として、社内販売上の約6%19年度)のインフラ環境事業を、会社の3本柱の事業のひとつとして位置づけ新しい環境ビジネスを展開しています。

 

環境と調和する富津工場:非FIT型風車2基、年間約1割の電源を供給】

 

 「風力発電は、エネルギー問題解決への切り札として高い関心と期待が寄せられています。
わたしたちは、日本の気象、地形条件にあった日本型の風力発電機の開発に力を注いできました」。そして、2006年に中型風車「KWT300」(定格出力300kW)を完成させ、千葉県富津市にある富津工場に試験機を設置しました。

 

 このKWT300について、耐震性や輸送・施工性のほかに、特に力をいれたのは耐風性です。日本の平均風速は欧州に比べて高くはないですが、台風時などの耐風性が求められています。国際基準での風車の耐風性は、設計基準が上から1から3のレベルに分かれています。最大は最高レベル170m/s、平均風速はレベル28.5m/sに合わせました。乱流強度は当時の国際基準レベルの最高0.16値を上回る0.18に設定。設置は大型クレーン車が使えない場所向けに、先に組み上げたタワーの先端に滑車をつけてブロックにしてワイヤーで吊り上げる方式も開発しました。大型トレーラーは必要ありません。試験機では、タワーの高さを43.5m、ブレードを16mにして、建築基準法の規制が厳しくなる制限にかからないようにぎりぎりの高さにしましたが、次からは高さを41.5mに変更しています。そうした設計思想で、ドイツのコンサルタント会社に設計は発注しました。

 

 2014年に富津工場の2号機を建設しました。FIT売電しなかったのは、「風車でも自家消費型ができるという実績を示したかったからです」。当時は経産省から自家消費型として1/3の補助金がでました。(現在は環境省の「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」)。富津工場は従業員147人、協力会社を入れれば3-400人が働く大きな工場で、一日のピーク電力消費は約2000kWh。その年間電気消費量の約10%が風車で賄い、橋梁・鉄骨の生産工程の電力源として使用しています。工場は夜もロボット溶接などで稼働していますが、電気の消費は3-400Whに落ちます。

 

また、ゴールデンウィークや盆正月でも余剰電力が多く発生しますので、余剰売電しています。さらに、工場の自家消費分を環境価値として日本自然エネルギー株式会社に「グリーン電力証書」として販売しています。(相対契約なので単価は未公開。価格は当初より半分位下落)

 

 

 

宮川公園©グーグルマップ
宮川公園©グーグルマップ

その2 宮川公園風力発電:経済的にかつかつでも技術力を生かし再設置

 

 神奈川県三浦市の宮川湾に面した宮川公園には、2基の風力発電があり、市民の憩いの場として親しまれています。風車は市を象徴するランドマークとなっています。その再建にあたったのが、インフラ環境部でした。

 

公園内の2基の風車は、旧通商産業省(現在の経済産業省)の風力開発フィールド・テスト事業の研究対象として、1997年に設置されました。1号機は2015年に停止、2号機は17年に停止。老朽化のため再稼働の見通しが立たないため、19年には撤去されることに。

 

「この公園には大型風車が入らない場所です。打診があっても、もうかる事業ではありませんでしたが、弊社の足跡を残すために引き受けることにしました」。採算的に「かつかつ」なので、市には用地を無償で提供していただきました。風車の電気は公園の電灯や水道ポンプなどに使ってもらっています。残りはFIT価格で売電しています。

メリットは建て替えなので、環境アセスメントの手続きがいらないことです。

風車がSNS上などで取り上げるなど波及効果があり、会社のPRにもなりました。


メキシコのラベントサで稼働中のKWT300 ©駒井ハルテック
メキシコのラベントサで稼働中のKWT300 ©駒井ハルテック

株式会社駒井ハルテック(インフラ環境事業部) 

長年培った技術力で日本型風車開発、国際支援も

その3 途上国支援:設計からメンテナンスまで技術移転支援、COP25でも提言

 

 海外の最初の事業は2009年にメキシコ国内有数の強風地域、オアハカ州ラベントサに建設したことです。この地は地震多発地帯。また、ハリケーンがしばしば襲来します。KWT300が採用された最大のポイントは、耐震強度と耐風速の高さでした。

 

当時、メキシコには大型風車がありましたが、アメリカやスペインなどの会社が設計やメンテナンスもすべて自社で行い、メキシコには技術が育っていませんでした。そこで、設計からメンテナンスまでトレーニングして、日本で駒井鉄工が培った技術とノウハウをメキシコに伝えました。現場作業では、日本では当たり前になる架設機材や、チェーンブロック、「しの」のような工具がないなど、試行錯誤の連続でした。当初2-3年間は半年に1回は日本から出向いていましたが、その後は現地スタッフがすべて自力でメンテナンスができるようになったのです。メキシコ政府と国連開発計画、メキシコ電力研究センターの共同プロジェクトで、風力技術センターが設立されたからできたこともあります。

 

 同じようなシステムは、ブータン王国初の風力発電所建設、フィリピン、南アフリカなどの風力発電機建設にもつながっています。さらに19年にスペイン・マドリッドで開催されたCOP25(25回気候変動枠組条約締約国会議)に環境省の事業の一環として参加。会場内の日本政府パビリオンで島嶼国地域へのKWT300導入を提案しました。

 

最後に市民風車発電へのアドバイスを伺うと、「場所があるので風車を建設すると、必ずと言っていいほど、失敗します。でも、風さえあれば、お金は金融機関からも借りられますし、なんとかなるでしょう」と豊田さんは答えてくれました。

駒井ハルテック 取材こぼれ話3 駒井ハルテックの電気が新電力会社に

神奈川新聞の記事をきっかけとした取材の中、グリーンピープルズパワー(GPP) が駒井ハルテックの工場での風車の電気を購入することになりました。

 

 

©駒井ハルテック
©駒井ハルテック
©駒井ハルテック スペイン・COP25の日本政府パビリオンにて発表
©駒井ハルテック スペイン・COP25の日本政府パビリオンにて発表

株式会社駒井ハルテック(インフラ環境事業部) こぼれ話

駒井ハルテック 取材こぼれ話2「風車と三浦ダイコンが町のシンボル」??

インタビューのときに「風車と三浦ダイコン」の話がでました。上記のタイトルをつけようかと思いましたが、ちょっと疑問があったので、三浦市役所の担当の方に再度電話。「三浦ダイコンはもうあまり作られなくなったのですよ。大きすぎてスパーなどの規格に合わないからです」。というわけで、没のタイトルにしました。

 

駒井ハルテック 新着情報 

7、駒井ハルテックの風力発電供給開始

22日から、グリーンピープルズパワーの発電所に風力発電が加わります。

三浦市の宮川公園に立つ、駒井ハルテックの風力発電2基(600kW)です。電気はまず公園で使われますので、当社はその余剰電力を供給します。

FIT発電所なので特定卸供給という形になりますが、ユーザーのみなさんに風力発電が作った電気が届けられるのは間違いありません。

どうぞ風力発電の風音を、当社電気から感じ取ってください。

イージーパワー +

グリーンピープルズパワー 

 

合同メールマガジン 20212月号 より