【オーストリアの水力発電の約9割は個人所有】
「第7回全国小水力大会第in京都」の第一分科会のテーマは「オーストリアに学ぶ再生可能エネルギーと水力」。クリストフ・ワーグナーさん(再生可能エネルギーオーストリアEEO会長)は分科会で次のようオーストアの電力事情を話してくれました。
●30年までに再エネによる発電量を100%へ、約半分の電気を供給する水力発電が鍵
人口900万人、面積84千㎡のオーストリアの電気構成の72%が再生可能エネルギー由来です。オーストリアは2030年までに再エネによる発電量を100%とすることを目標としていいます。エネルギー生産(原文のまま)は合計で70. 3TkWh。その内52%は水力発電です。全土には3kWから1万kWの水力発電所が約5000基あります。その内、送電網の繋がっているのは、4000基。2000基は200kW未満。水力発電は、約180万世帯=オーストリアの50%の電力を供給することができます。
(水力発電所の4割が200kW未満であることに注目してください。日本では1000kW以下を小水力と定義しています)
更に、水力発電所の約9割が個人所有です。個人でメンテナンスも手掛けているそうです。(参考:2021年の日本の電源構成の再エネ割合は22.6%、その内水力は7.6%。2030年の再エネの見通しは36-38%)
その背景には、オーストリアでは、男は(大抵)自分で家を作るということをしており、その上で、生きている内に、小水力を一か所作りたいという夢を抱くというオーストリア人気質があります。その上で、一人が小水力に新しいものを導入したら、すぐに次の人がいいものを真似する、それを皆がお互いに話し、ノウハウを共有しています。
その歴史は、1880年、オーストリア初の水力発電所(民間)が独立運転からスタート。その後、タービンの使用により製粉所の近代化が進み、田舎に小水力発電所は、繁栄とビジネスの発展をもたらしました。
同時に、自然保護法(9つの州によって法律が違う)によって、きれいな景観を保つもことも大事にしています。一方、国も州も自治体レベルを大事にしています。法律があっても、村長がNOと言えばできなくなることもあるそうです。
2022年制定の再生可能エネルギー法は、再エネに投資する民間資本を活用することを目的としています。投資額の30%を補助金として、20年間にわたって特別な価格で買い取ってもらうことを可能にしました。更にもっと高みの法律を目指しています。
(続く)
【オートリアの水力発電の約9割は個人所有】その2
●6ヶ月に認可しないと、自動的承認するという法律制定を目指す
私のひいおじいさんも、おじいさんも、小水力発電に携わってきました。(ワグナーさんは1957年生まれ。19才で小水力のメカニカルエンジニアとしてキャリアーをスタート。1992年に5つの水力発電を運営する起業家として独立。現在8ヶ所の小水力発電所を運営管理)これまで6人の総理大臣とエネルギー担当大臣8人にエネルギーに関する法律を作る手助けをしてきました。
私は今新しい法案を手掛けています。認可のガイドラインを見直すつもりです。誰かが決定しなければならないでしょう。それで、(小水力発電の)認可を提出して、6ヶ月以内に回答がないと、自動的に認可される仕組みを作るというものにします。
2030年まで発電再エネ率を100%にするためには、小水力発電による電力を2. 5TWh追加することになっています。そのためには、1.5TWhを新設に建設し、1.0TWhを既存発電所の最適により達成する必要があるからです。
●オーストリア家庭での電力消費と目指す電気料金の設定
オーストリアでも電気の高騰が続いています。でも、ロシアのガスなしで、エネルギー危機を克服していくつもりです。その解決策は、エネルギーの消費を抑えることと、再エネの普及にあります。このままだと、家庭も産業も倒産してしまうでしょう。
オーストリア380万世帯の電力消費は約18TWh(総電力消費量の25%)。2021年、1世帯あたりの消費電力量は約4700kWh/年間ですが、2030年には暖房システムの変更(ヒートポンプ)と電気自動車の普及により、約6000kWh/年間と予想されている。一方、2023年、国の電気代補助は消費の2900kWhまでは一律10セント(100セント=1ユーロ)で消費を押さえています。
2030年まで、電気料金を再エネの生産コストと同じ水準(11~15セント/kWh)にすることを目指します。
●原発反対が55%から80%に
オーストリアにはツベンテンドルフ原子力発電所という世界一安全な原発があります。(注:同発電所の建設工事は1972年に開始、1977年に建設が完了。しかし、完成直前頃から起こった反対運動のため、同原子力発電所の運転開始をめぐって国民投票が行われた。その結果、原子力禁止法が成立し、同原子力発電所は運転に入らないまま、廃止されることになった)なぜなら稼働してないから。その発電所の上に太陽光パネルが乗っているからです。
1978年頃、原発反対者は51%、「やりましょう」という人は49%。今、ウクライナ危機で原発に反対する人は約80%になっているのです。
「未来は再生可能エネルギー、それなしでは未来はない」とワーグナーさんは強調していました。
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2022.11月11日に行われた「第7回全国小水力発電大会in京都」でのクリスト・ワグナーさんの講演と資料集から、高橋喜宣が構成を変えた記載しました。
オーストリアの写真:手塚智子さん提供。
参考 ATOMICAデータ
・ツベンテンドルフ原子力発電所 (本文を読む)
https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_14-05-12-01.html
・オーストリアのエネルギー・電力需給と原子力 (本文を読む)
https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_14-05-12-02.html
・2030年度におけるエネルギー需要の見通し、令和3年9月資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/opinion/data/03.pdf
◎左上:製材所:2018.09.06訪問(ケルンテン州) 52kW
◎右上:製材所:2019.09.05訪問 フライシュタットにて(オーバーエステライヒ州) 40数kW 24万kWh/年
◎左下: Anton Kittelmühle Plaika GmbH(ニーダーエステライヒ州) Web情報収集(https://kittelmuehle.at/oekostrom/)
◎右下:AAE(Alpen Adria Energie):2018.09.06訪問(ケルンテン州)宿経営、郵便馬車のステーション兼宿、1886年に最初の水力発電設備を設置(18kW) 提供 手塚智子さん
オーストリアでは、原発反対が55%から80%と増えてあるのに、日本は逆を行っているという報道もあります。
補足
●補足、NHK調査 日本の原発賛成派48.4%??
松久保肇さんは川崎の団体の講演でアンケートにも『次世代』とすることで結果に大きな差 、しかし建設されるのは今の原発」と強調していました。
朝日新聞世論調査―質問と回答〈2022年8月27、28日実施〉では、原子力発電所についてうかがいます。あなたは、国内に原子力発電所を新設したり、増設したりすることに賛成ですか。反対ですか。
結果「 賛成 34% 反対 58% その他・答えない 8%」
一方、NHK 2022年9月 政治意識月例電話調査
問10 原子力発電所の政策をめぐって、政府は、次世代の原子炉の開発や建設を検討す る方針です。この方針に賛成ですか。反対で すか。
1. 賛成 48.4 % 2. 反対31.6 % 3. わからない、無回答19.9 %
と原発賛成派が上回っています。
参考 NHK 2022年9月 政治意識月例電話調査
extension://elhekieabhbkpmcefcoobjddigjcaadp/https://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/pdf/aggregate/2022/y202209.pdf
http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/archive/2022_09.html
【ドイツ・フランスの原発事情】
オーストリアの脱原発事情について、おそらく「でも小さい国だからできた。ドイツはフランスの国から原発の電気を買っているから脱原発ができる」という話になるでしょう。
ドイツとフランスの原発事情について原自連メルマガを転送します。2022年11月に、ドイツシュピーゲル誌の元日本特派員のウィランド・ワーグナー氏の話を木村結さんがまとめたものから抜粋しました。
ドイツの電力構成は風力23.8%、太陽光12,2%、バイオマス7.3%、水力2.9%、再生可能エネルギーで46.2%に達しており、原発は5.8%。ウクライナ戦争による電力不安から自然エネルギーに転換する動きが加速しているのはプーチンのおかげです。
【フランスの事情】
フランスは大統領制であり、非常に強い権限が集まっています。ドイツの連邦制と異なり日本同様中央集権国家のため、何事もパリで決められているので日本同様強固な原子力ムラが存在します。今年は56機の原発のうち半分は地球温暖化のため、川が干からびて原発の冷却水を供給できないため停止しています。労働者のストライキもあり、技術者が集まらないこともあり、現在ドイツから電力供給を受けている状況があるのです。
しかしマクロンさんは、新規原発建設や、60年の運転延長を画策中です。ラ・アーグの再処理場には世界最大の中間所蔵施設もあり、強気です。ただ最終処分場が決まっていないのは他国と同じですが、ビュール近郊で調査などが行われていますが、そこは粘土岩で、フィンランドの花崗岩とは異なることが最近問題になっています。
フランスはトリチウムなどを含む処理水を2020年に2週間半にわたって福島で保管されているのとほぼ同量を太平洋に放出しました。テレビでも報道されたようですが、その際フランスで議論が起こっていないことも問題だと思います。運転中の排水も川に放出しており、下流の住民はその水で生活しているので、民間団体は調査しています。
フランスの電力構成は、水力13%、風力7.9%、太陽光2.5%、バイオマス1.9%と再エネ合計で25.3%しかなく、原子力は67.1%(2020年)フランスはイギリスなどで原発を建設していますが、膨大な建設費が掛かっており、投資を集めたいので、EUタクソノミーに原発を加えようとしたと思われますが、私は原発をグリーンエネルギーだとは思っていません。
EU全体でも2030年までに再エネ40%を目標にしていますので、原発回帰になるとは考えていません。EUが一致団結しなければ、アメリカに対抗できないので、とても重要な問題です。(文責 木村結)
参考
〇猛暑で原子炉を冷やせない! 地球温暖化の影響が原発の稼働にも及び始めた
https://wired.jp/article/nuclear-power-plants-struggling-to-stay-cool/
〇「ドイツはフランスの原発由来電力を輸入している」は本当か
https://energy-shift.com/news/686fba8d-956a-45a3-8b61-15b7dea97909
読者の声
・日本の場合は水利権があるので水力発電は難しいと思いますよ。米価格の安い農家ですら水田に水を引くのに水利権を国土交通省河川事務所から団体交渉で期間限定で水利費を払い水を引きます。また排水にも料金が発生します。それを計算すると火力発電より経費が高く付きますよ。