再エネ事例              (営農型太陽光発電=ソーラーシァアリング)

上右©えこえね南相馬研究機構 下右©小田原かなごてファーム 下左©農業生産法人水杜の郷


1. 千葉大学発ベンチャー企業千葉大木戸アグリ・エナジー1号 四季それぞれ楽しい発電所

2 福島県南相馬市 一社えこえね南相馬研究機構 半農半電で地域活性

3 福島県飯舘村飯舘電力株式会社 汚染に負けない村の再興を期し、次世代に仕事を残す

4 ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所、全国第1号のソラーシェアリング 食料、エネルギー、地球温暖化克服を目指して
5 
 小田原かなごてファーム 食エネ自給のまちづくり、荒地を耕し、心を耕す

6 さがみこファーム前戸発電所 食とエネルギーで自然と調和した未来を創る

7 ソーラーシェアリングでマイナスからの地域復興

8 こなんウルトラパワー西寺太陽光発電所 再エネで地域力高め課題解決

 

 


千葉エコ・エネルギー株式会社

その1

 

千葉大学発 ベンチャー企業千葉大木戸アグリ・エナジー1号  四季それぞれ楽しい発電所

木戸アグリ・エナジー1号
木戸アグリ・エナジー1号

千葉大学発ベンチャー企業千葉大木戸アグリ・エナジー1

四季それぞれ楽しい発電所

 

 「有機農業なので、虫や動物の楽園です。ここは四季ごとに変化するので、いつ来ても楽しい場所になっています」というのは千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役の馬上丈司さん(1983年生まれ)。馬上さんは201210月から大学発ベンチャーとして、各地で再エネによる地域事業に携わってきた公共学博士。

 

 この発電所は、千葉大学発の自然エネルギーベンチャー企業として誕生した千葉エコ・エネルギー株式会社が、自然エネルギー×農業×地域活性化という新しいモデルに取り組んでいる。

 

 5年半かけてたどり着いた成果が千葉大木戸アグリ・エナジー1号」だ。183月、その経験を生かして、約1ha100×100m)の耕作放棄地(23年)にソーラーシェアリグ(625kW)を完成、4月から株式会社マイファームの指導の元、農業も開始している。主要作物のにんにくは年間収穫約6kg、発電は年間90khを見込んでいる。

 

 良い土を残すためにブルドーザーで水平にするのではなく、地面の高低差を合わせて523本の支柱を埋め込んだ。南北、東西とトラクターが動けるように工夫。「私のこだわりで」デザインにも凝ったという。いわゆる長島方式(ソーニーシェアリング・営農型発電所の生みの親)の狭いパネルではない。大き目のパネルでもソーラーシェアリグができるという実証でもある。遮光率は50%。夏のイチゴ栽培など、いろいろな作物の実験栽培にも取り組んでいる。風速42mを実測したが、被害はまったくなかった。

 

 JAに入っていなので、自分たちで販路を開拓していく。さいまいもケーキを作るなど、農業の6次産業化にも取り組んでいる。

 

 「古来より切り離せない関係にあった<エネルギーの生産><食料の生産>という農業の持つ2つの要素を融合させていき、私たち人類が抱える根源的な問題への解決策を模索したいと考えています」

 

 「私たちは、この大木戸から、日本そして世界に向けた新しい農業のモデルを提案していきます」 

 

 (撮影:20181117日 市民電力連絡会首都圏連絡会の視察にて)

木戸アグリ・エナジー1号を説明する千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役の馬上丈司さん
木戸アグリ・エナジー1号を説明する千葉エコ・エネルギー株式会社代表取締役の馬上丈司さん
木戸アグリ・エナジー1号
木戸アグリ・エナジー1号

一般社団法人 えこえね南相馬研究機構

その2 

半農半電で地域活性


奥村農園のソーラーシェアリング設備は「再エネの里」
奥村農園のソーラーシェアリング設備は「再エネの里」

一般社団法人 えこえね南相馬研究機構

~半農半電で地域活性~

 

 「東日本大震災と原発事故によって、私たちの地域は、農林産業の休業、商工業の事業所閉鎖や撤退、人口流出、コミュニティの分断など、様々な問題が起きてしまいました」というのは、「一般社団法人 えこえね南相馬研究機構」。

 

 そこで、再生可能エネルギーを復興のバネにしようと立ち上がりました。太陽光を、作物生育と発電とで分かちあうことで持続可能な半農半電を目指し、2015年に、福島県南相馬市の農地8ヶ所に合計332kWのソーラシェアリグス設備を設置しました。

 

 その建設コスト12千万円は、農家、地元金融機関がそれぞれ1/3を出資、残り1/3を新エネルギー庁の補助金で充当しました。償却に17年位かかる予定ですが、補助金の金額の1/2を地域へ還元することを決めています。

 

 中でも奥村農園のソーラーシェアリング設備は「再エネの里」と呼ばれ、社団メンバーをはじめとするボランティアの皆さんの共同作業により20138月に完成しました。もっと農地を生かしたいし、原発保障依存の次の手を考え農地と農業を元気にしたい、など思いが一杯詰まった里になっています。また、そこでは子ども大人も一緒に遊ぶポニー乗馬体験も行われました。

 

農家は安定収入を得られて後継者を育て、「半農半電」の新らたな地域活性化のモデルづくりが行われています。                (文・ 高橋喜宣)

 

初出:市民発電所台帳2017

えこえね南相馬研究機構のソーラーシェアリグ
えこえね南相馬研究機構のソーラーシェアリグ

その3 

福島県飯舘村飯舘電力株式会社   汚染に負けない村の再興を期し、 次世代に仕事を残す

飯舘村飯舘電力のソーラーシェアリング
飯舘村飯舘電力のソーラーシェアリング

その2

福島県飯舘村飯舘電力株式会社

汚染に負けない村の再興を期し、次世代に仕事を残す

 

「このままでは限界集落になってしまいます。何とか村に仕事をつくらなければならないという思いで始めました」と飯舘電力株式会社の小林稔社長は語っています。

 

ここ福島県相馬郡飯舘村は福島第一原発から30㎞にありますが、北西の風が吹き、原発からの放射能の風をまともに受けてしまった村です。20173月、村の避難指示が解除されましたが、20188月現在、帰還者は875446世帯、避難者は48762012世帯。

 

「仕事を残しておけば、次の世代が何かを考えてくれるのではないか。若い人が戻って来た時に雇用の場を作り、地元でお金を回すには再生可能エネルギーしかない」と小林さん。

やがて、この志によって、185月の取締役会では太陽光発電設備が今年中に約60基、計約3kWに達する見通しと、報告できるようになりました。その設備の4割近くはソーラーシェアリングが占めているのが特徴です。パネルの下には牧草を植え、牛を飼うことも検討しています(写真は、57.24kWの「MS藤・営農型太陽光発電所発電所」=M田・S藤は農地提供者の名)。

 

同社は149月に設立。当初は出力1500kWの大規模な太陽光発電を計画していましたが、東北電力の接続保留宣言で断念。その後、50kW未満の小規模発電なら接続できると、155月に第一号基を特別養護老人ホーム脇の村有地を借りて建てました。同年7月には「太陽は昼だけだが、風は夜も吹く」と考えて、地権者の同意も得て、村東部の山林に2kWの風車を建てる計画を打ち出しました。

 

しかし3ヶ月後、東北電から呼び出され、口頭で伝えられたのです。「接続するには送電線の増設や変電所の改修工事に約21億円の費用と5年以上の月日がかかる。今取り下げれば申込金20万円は返す」。資本金3250万円の零細企業としてはやむなく断念しました。

 

一方、「ソーラーシェアリグという方法があるよ」と教えてくれた方がありました。もともと農業をやっている人の集まりですから、農業委員会の許可はとりやすかったそうです。

 

しかし、金融機関からの融資が難しく、都銀はダメで、地方銀行が貸してくれました。

 

「飯舘村の地元資本を先行し、地元や県内の技術を結集して新産業創出と若者の雇用を目標とし、再生可能エネルギーとしての太陽光発電事業、バイオマス発電事業、植物工場、研修施設の設置運営、世界に向けた情報発信事業、帰村拠点の運営事業等を行ない、飯舘村民の自立と再生を促し、自信と尊厳を取り戻すことをめざす」これが同社の目的です。

初出:市民発電所台帳2018

飯舘村飯舘電力のソーラーシェアリング
飯舘村飯舘電力のソーラーシェアリング

ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所

その4 

全国第1号のソーラーシェアリング 食料、エネルギー、地球温暖化克服を目指し

ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所
ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所

ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所、

全国第1号のソーラーシェアリング

食料、エネルギー、地球温暖化克服を目指し

 「平和を守るには、食料、エネルギー、地球温暖化克服が欠かせないと考える。その二つを満たすのがソーラーシェアラングだ。いや地球温暖化が加速すると、その緩和策のひとつにもなるかもしれない」とソーラーシェアリング上総鶴舞の高澤真さんはいう。

 

 ソーラーシェアリング上総鶴舞は、農水省が設置に関する指針を発表した20134月に稼働を始めた、全国第1号のソーラーシェアリングシステム(同発電所のホームページによる)。 ソーラーシェアリング開発者である長島彬氏の指導、監修のもと完成した。年間約40000kWh、一般家庭で約10軒分の発電をしている。

 

 201633日「第3回ソーラーシェアリング交流会」に参加。千葉県市原市にある上総鶴舞(かずさつるまい)ソーラーシェアリング発電所を訪ねた。高澤真さんの実家の農地750㎡の3ヶ所に、100W×348枚 34.8kW LOOOP社製を設置。総工費約約1,260万円。設置パネル枚数 

 

 高澤さんは農林水産省のバイオマスタウンアドバイザー養成講座を受け資格を取った。「農村に若者はいないのは経済面で成り立たない。そこで農村を元気にしたい」という思いが募っていた。そんな時に川崎市のCHO研究所の長島彬さんが市原市で行っているソーラーシェアリングを見学したのをきっかけに、実現させた。

 

 再生可能エネルギーの「固定価格全量買い取り法(FIT法)」により東京電力と1kWhあたり40円(税別)で20年間売電契約。上総鶴舞では、市原市農業委員会(千葉県農業事務所所管)に申請し、20139月、正式に、千葉県知事より、支柱部分の一時転用許可を受けています

 

 農業の一時転用申請書類には「営業の見込み、根拠となる関連データ、必要な知見を有する者の意見書」など必要とされ、収穫高も2割以上減らさないという条件があるなど、まだまだ数多くの困難があるようだ。中でも許可書の中に「平成28917日までに許可地を農地に復元する」と書かれており、融資を受ける障害になったそうだ。

 

 今は廃棄処分になる蓄電池を安く仕入れて、太陽光発電を利用した水耕栽培プラントも実験的に行っている。

 

参考

ソーラーシェアリング上総鶴舞 – Solar Sharing – Kazusatsurumai (kazusatsurumaisolar.jp)

 

 

2016.3.3 取材・撮影 高橋 

ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所
ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所
ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所
ソーラーシェアリング上総鶴舞発電所

小田原かなごてファーム

その5 

食エネ自給のまちづくり、荒地を耕し、心を耕す

小田原かなごてファーム2号機の田植えイベント
小田原かなごてファーム2号機の田植えイベント

【食エネ自給のまちづくり、荒地を耕し、心を耕す】

 

「小田原かなごてファーム」その1

 

「農業なんて、自分の仕事じゃない、まさか田んぼが自分の仕事になるなんて思ってもいなかったです」と「合同会社かなごてファーム」の小山田大和代表(42)は2022619日川崎で行われた講演会(食エネ自給のまちつくり―再生可能エネルギーに取り組んだ4000日―)で語った。小山田さんは神奈川県小田原で農業やエネルギー事業を通し、地域活性化に取り組んでいる。ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)4基をつくっただけではない。その電気を使って、農家カフェを経営、また、自然栽培米・自然エネルギー100%(電気)使用のお酒「推譲」づくりにも貢献している。

 

●きっかけは東日本大震災

 

こうした活動のきっかけは東日本大震災。「自分の人生感が大きく変わった」と小山田さんはいう。郵便局勤めという安定した職場を辞めるまで3年かかった。「郵便局の営業は、自分がいなくともできる仕事。でも(郵便局を辞めてまで)我々世代がやって、実践を作って変えることを示さなければならない、思いました」。

 

「このことが(ちょっとした)家庭の危機になりましたが、(郵便局職員との結婚生活を)何とかあきらめてもらいました。(妻は)家庭内野党としてありがたい存在になっています」。

 

●農業の始まりは耕作放棄地のみかん畑

 

 2014年初めに始めたのは「おひるねみんかんプロジックト」。耕作放棄=おひるねしていた畑となぞらえて、みかんジュースの商品化。農家さんから耕作放棄地になったみかん畑の相談を受けたことからの出発だった。15,000坪の耕作放棄地を蘇らせた。

 

しかし、苦労して育てたみかん1100gが6円にしかならない、1キロ売っても60円。それを6次産業化(農畜産物の生産だけでなく、製造・加工の2次産業やサービス業・販売の3次産業にすること。2×3=6)して、みんなで農薬、除草剤、肥料、何も使わない農法で栽培して仕事量を半分にした。そして、高くとも付加価値の高い「志」を売りに「おひるねジュース」にして販売することにした。小田原・箱根の通信サイトでおひるねみかんジュース(2)750円(810円税込)。

 

 このみんかん畑にはヤギを飼い、雑草を食べてもらっている。名前はSNSで募集して、「みかん」ちゃんと命名。ソーラーシェアリングの田植えイベントにも出演してもらい、子どものアイドル役になっている。

 

 

これを足掛かりに2016年小田原かなこでファームを設立、同年小田原市下曽我にソーラーシェアリング1号機(バネル容量15.12kW、さつまいもを作付)を竣工させた。

小田原かなごてファームのアイドルヤギのみかんちゃん
小田原かなごてファームのアイドルヤギのみかんちゃん

【食エネ自給のまちづくり、荒地を耕し、心を耕す】

「小田原かなごてファーム」その2

 

● 2号機は台風で崩壊。めげずに再建、その電気と米で酒づくり

次は20183月に耕作放棄地だった田んぼ(小田原市桑原、約360坪)の上にパネル容量58.24kWの発電所を建設した。同年9月、稲も順調に実ってきたところ、台風18号が関東を直撃し、ソーラーシァリングの支柱をなぎたおしてしまった=写真。せっかく作った米も収穫できなかった。

それにもめげず、195月に再建した。幸い保険が降りたが、全額ではなく100万円不足した。それは、施工主責任でやってもらい、負担ゼロで再建してもらった。強度を上げるため支柱を支える土台のコンクリート部分を広げることにした。そのためには、再度農業委員会に申請をやり直おさなければならなかった。

 

(注: 農地の発電などへの活用を認める権限は、農業関係者が参加する各地の農業委員会が握っている。農地転用許可申請には、かなり膨大な書類が必要。小山田さんは大学時代に行政書士の資格を取得している。役立ったのだろうか? )

 

作付けの米は酒造用にすることにした。ここの電気と米で「推譲」という日本酒を製造。電気は株式会社UPDATER(旧:みんな電力株式会社)通じてブロックチェーンを使った手法で酒造会社に届けられている。

 

酒を作ったのは、小田原で寛政元年(1789年)創業の井上酒造。小山田さんらの活動は店主=写真=の心もとらえたようだ。お酒の箱に店主のメッセジーがあることからも知ることができる。

 

「二宮尊徳の推譲の精神=身の丈に合った生活をし(=文度)余剰が出たら、今その余剰分を使うのではなく将来の為、社会の為に使う=に則った日本酒「推譲」を世に出すことによって、少しでも多くの人が自然の大切さ偉大さに気づく、自然に感謝、自然への畏敬の念を抱いてほしいと願いを込められた日本酒です」。

 

 

台風で倒壊した2号機 写真提供:小田原かなごてファーム @につき転用禁止
台風で倒壊した2号機 写真提供:小田原かなごてファーム @につき転用禁止
小田原で寛政元年(1789年)創業の井上酒造。
小田原で寛政元年(1789年)創業の井上酒造。
小田原かなごてファーム2号機、人力で代掻き(しろかき)するイベトン
小田原かなごてファーム2号機、人力で代掻き(しろかき)するイベトン

【食エネ自給のまちづくり、荒地を耕し、心を耕す】

「小田原かなごてファーム」その3

     3号機曽比の電気で、農家カフェを経営

 前述の二宮尊徳(金次郎 は、江戸時代に、経世済民を目指して報徳思想を唱え、報徳仕法と呼ばれる農村復興政策を全国で指導した人物。相模国足柄上郡栢山村(現在の神奈川県小田原市栢山(かやま))生まれ。第3号機は二宮が植林したとされる酒匂川の土手付近の土地約514坪に、ソーラーシェアリング発電所(バネル容量78kW)を建設することにした。

 

 しかし、この「金次郎の里ソーラーシェアリング発電所」には思いもよらぬ試練があった。

農地の下は河原の石ころがごろごろ。工事が難航して、思わぬ追加費用に頭を抱えた。じゃり対策に約200万円、電柱も増設して接続費用に約210万円増加した。その時、資金的に助けたくれたのが、元警察署長の小山田さんの父親だった。そして、20212月に完成させている。

 

 ここでも新しい試みを開始した。FIT(固定価格制度)に頼らない自家消費モデルのソーラーシェアリングだ。これに環境省の補助金(「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金・廃熱・未利用熱・営農地等の効率的活用による脱炭素化推進事業」)を活用した。

 

 ところが電気を引き受けてくれるところがない。これまで友好関係のある新電力会社「グリーンピープルズパワー株式会社」が引き受けてくれた。同社の社員は「おひるねみかんプロジックト」にも参加、つなぎ役をかってくれた。

 

 環境省の補助金には全電気を自家消費という条件がある。そこで同年「農家カフェ・シエスタ」を「自然エネルギー100%、自家生産の食材を使用」で運営することにした。これにも問題があった。ここだけでは3号機の電気はすべて使い切れない。そこで、公共施設なら可能ということで、近隣の松田町にお願いして、やっと同町のスポーツセンター「アシガラ・パートナーズ」に電気を供給することができ、全量自家消費という道が開けた。

 

 小山田さんは4年がかりで松田町木質バイオマスボイラーを設置した立役者である。また「松田町再生可能エネルギーの利用等の促進に関する条例(令和2319日条例第6)」に「地域エネルギー享受権」という言葉を入れた生みの親でもある。そうした関係がここでも実を結ぶ。

 

     更に進むソーラーシェアリング、合意形成を大切にする心

 

 ソーラーシェアリング4号機はみかん畑の経験から愛川町の約400坪の土地にみかんを作付けようと計画した。ところが、どこの銀行もお金を貸してくれない。費用800万円を「110万円、最低5口以上、10万円でも可能」と市民出資を募集したこところ、たった1日で資金が集まった(出資者15名、1名は寄付)。

 

そして、202112月、小田原かなごて三増発電所(愛甲郡愛川町、パネル容量41kW)を「市民の、市民による、市民のための ソーラーシェアリング」として完成させた。

  

 「ぼくは旗振り役。ゆるく、楽しく、参加したい人が参加する。合意形成を大切にしています。押し付けたい立場ですが、ぐっと我慢していることもあります。いつもポジティブに考えて活動しています」と小山田さんは話してくれた。

 

取材:2022.5.27286.29

 

 

 

金次郎の里ソーラーシェアリング発電所 ©小田原かなごてファーム
金次郎の里ソーラーシェアリング発電所 ©小田原かなごてファーム
金次郎の里ソーラーシェアリング発電所の下は畑
金次郎の里ソーラーシェアリング発電所の下は畑
農家カフェ シエスタ 小田原かなごてファームの電気で運営
農家カフェ シエスタ 小田原かなごてファームの電気で運営
「農家カフェ・シエスタ」内部、本や野菜も販売
「農家カフェ・シエスタ」内部、本や野菜も販売

その6

食とエネルギーで自然と調和した未来を創る

さがみこファーム前戸発電所

さがみこファーム・相模原SS前戸3号発電所
さがみこファーム・相模原SS前戸3号発電所

【食とエネルギーで自然と調和した未来を創る】 その1

さがみこファーム前戸発電所 

神奈川県相模原市 4ヶ所、273kW(モジュール)、187kW(パワコン)

 

 講師の山川勇一郎さん(47)は、 2015年「たまエンパワー株式会社」を設立し、市民ファンドによる屋根貸し太陽光発電事業を手掛け、更に19年に「株式会社さがみこファーム」を設立して農業と太陽光発電事業を両立する「ソーラーシェアリング」に挑んでいる。神奈川県相模市にて、現在273kW(低圧4基:FIT18円)を発電し、向こう3年で2メガ規模まで拡大する計画だ。

 

     福島第一原発事故が再エネの道へ

 

 山川さんは「再エネの道を歩んだきっかけは、福島第一原発事故でした」と語る。一般企業に4年間務めた後、10数年間富士山でプロの自然ガイドをしていた。

 

 そうした中、2011311日の東日本大震災が発生。その直後に現地を訪れ、原発事故にすごい衝撃を受けたという。「今までまがりながらも自然と取り組んできましたが、エネルギーを無視したら未来は作れないと、はたと考えました。水、食料、エネルギーがあれば、まがりなりにも社会的な生活はできる。でも、自分たちで作っている人はそんなにいない。分業化の行き過ぎた弊害が、身近な所に来ているのではないだろうか? 」

  

 そこで、13年、故郷の東京都多摩市にUターンした。地域が主体となって立ち上げた「多摩電力」の代表を父がしており、そこに参画し、そこで1から勉強して太陽光発電のマネージメントをした。市民ファンドで4,500万円、地域金融機関から1.2億円調達した。人・モノ・カネを地域で回して、13施設 合計650kWの発電所を建設し、売電益を地域還元もしてきた。2年後の15年に独立、たまエンパワー株式会社を創業した。最初は多摩市から他の市や町へ、地域主体の発電者を主体に、固定価格買取制度(FIT)から自家消費型発電所へと広げていった。同時に、再エネ発電所開設のアドバイザー事業も手掛けてきた。

(続く)

場所は相模原市緑区青野原前戸地区の山間地、鹿防止の電気柵で囲まれている
場所は相模原市緑区青野原前戸地区の山間地、鹿防止の電気柵で囲まれている

【食とエネルギーで自然と調和した未来を創る】その2

     次に、農業だけで食える自立農業をめざし 

 

「この10年、太陽光発電の方向がずいぶん変わってきた」と山川さんは振り返る。太陽光発電所の無秩序な開発や自然破壊が起こっている。一方、再エネの電気はまだまだ足りない、なかなか進まない。解決策はあるのだろうか?

 

そこで、考えたのはソーラーシェアリング(営農型発電所)だ。地元多摩川市の農地はほとんど生産緑地(国交省管轄)で事実上できない。相模原市の事業者との出会いをきっかけに山間部の農地の地主さんと知り合い、本格的に検討を開始、用地を借りることができた。

 

場所は緑区青野原前戸地区(旧津久井郡)の山間地。神奈川県の北西に位置し、063月に相模原市に編入された。104月から相模原市緑区の一部である。山梨県南東部の道志村とも隣接している。この地区は農業振興地域基盤整備地区ではあったが、最初に訪れた時には、雑草に覆われた耕作放棄地だった。市内は政令都市とはいえ、地域唯一の小中学校は1学年生徒数わずか8人という集落だった。

 

 そこには、農業だけでは食っていけない、地域に仕事がないので、若者は都会に出ていくという事情があった。FIT価格が高い時代は、余剰利益を農業に回すことができた。しかし、今は違う。農業だけでも賄うことができる自立農業を目指すことにした。

 

     脱職人化で、ブルーベリー栽培を選択

 

 太陽光パネルの下に植える作物をブルーベリーにした。ブルーベリーはツツジ科の植物で、アラスカ・カナダ原産の日照条件がよくないところで育つ。遮光率40-45%でも十分育つ。

 

 ソーラーシェアリングでサカキ(神事に使われる常緑の中高木)を植えるところもあるが、乗り気がしない。小麦やソバを植えるにしても、単価が安いので何十haがないと商売にならない。

 

 私たちは農業の素人だ。いろいろな人から教わり習いながら農業をやっていくことになる。職人の技がなくても、安定的に作れる作物がないか? ブルーベリーなら、高単価だ。比較的技術がなくても安定的に作れる。機械化できず、手摘みなので、障がい者、お年寄り、子育てママにも手伝ってもらい、多様な雇用を生み出せる。

 

 そのやり方にポット栽培を選んだ。苗から成木まで2年で育てることができるからだ。普通に植えると、34年で収穫、4年間キャッシュが回らなくなる。植えたブルーベリー550本が22年には実を付けるまでに育った。現在、4つの低圧規模のソーラーシェアリングの下で、1100本のポット上のブルーベリーが育っている。コントロールセンターから、最適な配分の溶液を1日数回全域に回している。そうして、早熟から晩成のものまで、33品種が6月から8月まで順に熟していく。

 

 会員制の農園「さがみこベリーガーデン」をオープンした。近隣にキャンプ場が多いので、観光農園化を図って、来園者に摘み取りの体験をしてもらう。園内にはミツバチも飼っており、蜂蜜の販売も始めた。(写真のみつばち箱は冬のため防寒用)。次のステップは地元レストランへの供給、加工販売など六次産業化にも取り組んでいく。

 

 

 「中山間地の狭い農地で農業を成り立たせるのはチャレンジです。発電事業は回っていますが、農業はまだまだ発展途中で、現状ではそれだけでは食っていけません。でも、そこを目指さないと、日本の農業の未来はないと思います。自然相手のことですので、やってみないと分からないことがあります。今後、観光農園などで何とか粘り強く続けていきます。」

ミツバチ箱、防寒用、きけんは鹿の防止用の電気柵
ミツバチ箱、防寒用、きけんは鹿の防止用の電気柵

【食とエネルギーで自然と調和した未来を創る】その3

 

   自分が抵抗勢力だという自覚

 

 「私たちは地域では部外者です。地域には連綿と受け繋がれてきた文化や人間関係があります。そこで、いきなり脱炭素化うんぬんといっても始まりません。自分が地域の抵抗勢力だという自覚をもつことです。」

 

 営農型太陽光発電設備の設置には農地法に基づく一時転用の許可が必要だ。地元の農業委員会にいろいろな書類を提出して、農地に支柱を立てる部分の許可を取る。3年ごとに申請が必要だったが、一定の条件を満たした場合に限り、10年ごとに延長された。しかし、ここではその要件に合わずに、3年ごとに申請しなければならない。

 

 「私たちはそうした農業委員会や農協を抵抗勢力とは思いません。やってみせないと信頼されません。人の信頼がベースにならないといけません。農村は閉鎖的であるかもしれませんが、一度入ってしまうと逆に競争がないから、(旧住民にも新住民にも)どちらにも良い関係になります」

 

 「よそ者なりの自覚と『当たり前のことを、当たり前にやる』ことを大事にして、スピード+バランス感覚で、『発電事業者の前に農業者であること』を前提にしています」。

 

   自治体の地域防災や職場体験で貢献

 

 217月に地元の青野原前戸区自治会(会員約110世帯)に災害時に電力供給する協定を結んだ。令和元年台風第19号は、ここ津久井地域でも甚大な被害をもたらし、死者もでた。「きっかけは自治会長さんの奥さん。奥さんが『台風で停電したら怖いね。電柱が倒れたり、土砂崩れがあったりすると、陸の孤島になってしまうの』という話からです」。

 

 「最初はうちの電気をいつでも使ってください」と言いましたが、やがて自治会で取り組むことになり、毎年8月末の防災訓練で使い方のレクチャーを役員及び防災委員にしています。自治会は12組のブロックに分かれています。防災委員は毎年変わるので、10年くらいやれば全員が講習を受けることになります。」自治会館は持ち運び可能なポータブル蓄電池を購入した。それに充電すると、携帯電話などへ充電や炊き出し時の電化製品の電力として活用できる。晴天時最大10.5kWの出力が可能で、天候が良ければ、当面不足する心配はない。

 

 この契約のことがタウンニュースのトップに掲載され、谷口富士夫会長のコメントとして「この度は災害時における電源供給の提案に理解協力を賜り感謝している。災害時の不安が少しでも取り除かれる」と紹介された。

 

 更に、SDGsの実践フィールドに(食・エネルギー・自然・地域)、市民、行政、企業、大学など幅広い対象にリーチ可能にした。職場体験に来た地元の中学2年生が、 「さがみこファームで働いてもいいかな」と述べた。

 

   農業を志す若者を雇用

 

 「農業を志す若者は東京にもいます。東京都にもいっぱい希望者がいます。でも、なかなか農家さんは農地を貸してくれません。若者はウェイティング状態です。でも、遠く離れた所で農業を行うことまでにはなりません。近郊で農業をやりたいのです。相模原はその点ピッタリでしょう」。

 

 その一人小出竜士さん(39)は、家を引っ越して、さがみこファームでマネジャーとして働いている。

 

「ここで働きたいという若者は何人かいました。相性もありまして、彼一人を採用しました。小出さんは、勤めていた会社を辞めて、うちに来てくれました」。

 

   『さがみこファームが地域に来てよかった』と、 言ってもらえる存在に

 

 現在では、太陽光発電事業は固定価格買取度上の価格が安くて、採算がとれない。国の補助金を取って、ようやく採算が合う状況だ。今年、その補助金を取り、非FITで二つの発電所を建設するという。

 

 「何かをしようとすると常に『立ちはだかる壁』はあります。食×エネルギー ×観光×教育(=掛け算)にして、『さがみこファームが地域に来てよかった。』と、 言ってもらえる存在になりたいです。うちは会員制の農園で約400名超の個人会員と6社の法人会員がいます。でんきをきっかけにした地域づくりに取り組み、 ゆくゆくは、発電所共同開発も行いたいと考えています」と山川さんは強調していた。

 

現地取材・写真 20221211日 高橋喜宣

202334日開催の山川勇一郎さんの講演を基に原稿を高橋喜宣作成

 

参考資料

〇さがみこファーム

https://sagamicofarm.co.jp/

 

〇青野原前戸地区自治会、民間会社と電力供給協定、災害時 蓄電池に充電

https://www.townnews.co.jp/0303/2021/08/12/587064.html 

 

 

安全策は市が設置。この農場で働く若者。
安全策は市が設置。この農場で働く若者。

読者の声
ブルーベリーとかいちじくのソーラーシェアリングで、鉢下にシートを引くのが気になります。雑草対策など管理がしやすいのでしょうが、水の浸透、生物多様性、シートはプラスティックか?等
いいコメントありがとうございます。シートはこんな感じです。除草剤をまくよりいいのではないでしょうか? 

一部を芝にしたら、違反だといわれ、鉢を置いたそうです。
・芝を植えるのは何違反なのかな?
クローバーなどグランドカバーになる植物を植えるのはどうなのでしょうね。
オーガニックガーディナーの友人がこの近くに居るので地域にあったものを聞いてみましょう。
→あくまでも農地転用許可の上で行っているからです。
芝生は農地ではありません。
観光の農園の一部に芝を植えたが、農地転用違反に。そこでここにもブルーベリーの鉢を
観光の農園の一部に芝を植えたが、農地転用違反に。そこでここにもブルーベリーの鉢を

その7

ソーラーシェアリングでマイナスからの地域復興

陸前高田自然エネルギー・ソーラーシェアリングとEV車
陸前高田自然エネルギー・ソーラーシェアリングとEV車

【ソーラーシェアリングでマイナスからの地域復興 その1

 

*設計者:陸前高田しみんエネルギー (岩手県陸前高田市)

*250kW(太陽電池容量507kW)、建設地面積約7000㎡、発電量年間約50kWh

 

 東日本大震災により、岩手県内で最大の被害を受けた陸前高田市。課題は中心市街地をどう復興していくかにありました。「環境」「食料」「エネルギー」はどうあるべきか、地域課題を解決し、命のつながりを実現することを目指して、「陸前高田しみんエネルギー」(以下、しみんエネルギー)が誕生しました。

 

     被災ガレキからの復興、その担い手に「陸前高田しみんエネルギー」設立

 

 陸前高田市今泉北地区は住宅密集地でしたが、震災で全部が流されてしまいました。震災から7年経ってここにいろいろな事業提案がありましたが、なかなか形にならなくて時間ばかりがたっていました。同地区は防災移転地域となり、人は住めません。市が移転してもらう代わりにこの土地を買い上げていました。一方、復興庁はガレキ撤去に何十億をかけても何もやることが決まっていないのなら、そんなに予算を割けないというのです。陸前高田市は、窮地に追い込まれていました。

 

 2018、当時の陸前高田市長が、懇意にしていたワタミグループの社長と、これまで風力やメガソーラー事業やうすきエネルギーを手掛けてきた小出浩平さんに相談しました。先にワタミグループは弁当宅配のコールセンターを市に置き、約100人の雇用を生み出していました。小出さんは、再エネ発電、電気小売を含めた地産地消のモデルを目指して、陸前高田しみんエネルギー株式会社を提案し採用されていました。相談の結果、今泉北地区にワタミオーガニックランド(20214月一部開業)と、その後、2022年にブドウ畑を活用したソーラーシェアリング事業を起こしました。

 

続く

 

〇取材・撮影 2022328日 高橋喜宣

 

〇初出:「市民発電所台帳2023」この原稿の短縮版を発表

陸前高田自然エネルギー・ソーラーシェアリングとぶどうの苗
陸前高田自然エネルギー・ソーラーシェアリングとぶどうの苗
ワタミオーガニックランドの栽培
ワタミオーガニックランドの栽培

ソーラーシェアリングでマイナスからの地域復興 その2

―すべての公共施設に電気を届け、将来「修学旅行の聖地」に

 

東日本大震災の経験から、陸前高田市は災害時の電力確保と、平常時の再生可能エネギーの活用や地産地消について検討を進めていました。そのような中、196月、しみんエネルギー株式会社が設立されました。当初、資本金1000万円は市内企業で34%(拒否権)を持ってほしいということでスタートしました。リスクはワタミがとるからということでしたが、コロナ禍、ワタミがリスクを取れなくなり、現在、アドバンテック(愛媛県西条市)が55%、地元の長谷川建設30%、市が10%、ワタミオーガニックランドが5%の持株比率になっています。代表取締役の小出浩平さんが保証人となり公庫の資本制ローンと地銀の協調融資を受けて運営しています。

 

19年には市内の公共施設(高圧)から電力供給を開始。また、同年、しみんエネルギーが事務局を担って「環境型地域づくり推進協議会」を設立、エネルギーや食の地産地消だけでなく、漁業廃棄物や下水汚泥など有機質資源の活用、森林再生や木材の利活用について、計画立案し実行をしています。

 

20年には低圧供給を開始し、全公共施設に電気を供給しました。契約電力7000kW20221月現在)の約80%は公共施設に、民間では高圧13件、低圧49件に供給しています。現在の実際の電気は、商社より78月、12月、1月、2月は完全固定で仕入れ、その他時期はJEPXから仕入れています。

 

     ワタミオーガニックランド、農大の知恵と移住若者の力を得て

 

 ワタミオーガニックランドが生まれた今泉北地区は、かさ上げされた土地で土耕での栽培が難しい場所に建設することとなりました。だから、地元の方々からは肯定的に受け入れられました。そこで、土耕ではなく栽培が可能なワイン用ブドウの栽培、更に再生可能エネルギーを作り出すソーラーシェアリングが良いと選択しました。発電部門はワタミオーガニックランド株式会社が所有し、余剰電力はしみんエネルギーが買い受けて公共施設に送電、農業部門の運営はワタミファーム陸前高田株式会社(農地所有適格法人)が行っています。

 

 25haの広い地域はもともとガレキの山で、そこをどう農地に変えていくか、大きな課題でした。良い農産物をつくるためには50㎝の土が必要です。自然界では1㎝の土ができるまで100年かかります。土づくりについては「東京農大後藤逸男名誉教授にアドバイスを頂きました。後藤先生なくして、オーガニックランドなし、と思っています」と小出さんは語っています。ここの酸性土壌を改良するため、後藤先生のアドバイスで約50km北にある岩手県釜石市の日本製鉄で焼却された高炉スラグを活用しました。一方、市内の家庭や店舗の生ごみは発酵させて、ここで堆肥にしたいとテストをしていますが、現在、可燃ごみは全て釜石の日本製鉄所で焼却処理されています。また、ここの「黒土」は岩手県滝沢市から運んでいただきました。

 

ソーラーシェアリングの下に、何を植えるかは若者の発案でした。選んだのはマスカット・ベリーAという日本産赤ワインのぶどうです。土は津波によって流された土壌なので、根域制限栽培(ポット栽培)にしました。木を大きくしすぎないで、果樹の収穫を早める方法です。また、下に石を敷き詰めることで雑草取りの手間も省けます。この方法は水はけが良いことで濃縮された果実になり、肥料を効果的に与えることができます。震災から10年後の214月に500本、500台に植えました。できるだけ農薬や化学肥料に頼らないようにしています。

 

パネル下で栽培することで、「雨避け」になります。ぶどうは雨があたるとカビが生えて腐敗しやすくなるからです。「試しにパネルがない所で栽培しましたが、雨が当たりすぎて生育が悪かったです。ソーラーシェアリングとブドウは非常にマッチして、収量も上がるっていうことがわかったのです」と農場長の部谷文一(ひだりふみかず)さんは話してくれました。また、ソーラーシェアリングの柱を誘導線として活用することで、ぶどうの生育にも繋げています。部谷さんは広島出身でワタミ株式会社に入社後、農業部門で有機農業歴12年。関西の2農場の農場長として勤務した後、20年より陸前高田に在住しました。

 

ワインつくりで復興のシンボルにワインオーナー制度「0からワインつくる会」も設立しました。24年度には、23年度に収穫した原料で、ぶどうの生産(一次)、加工(2次)、販売(3次)まで6次産業化したワインづくりにします。

 

この農場管理担当・栽培責任者は神奈川県愛川町から移住してきた鈴木空慈(こうじ)さん(23)。修学旅行で陸前高田に民泊して、気に入り、高校卒後18年に陸前高田市に移住。20年現地の方の推薦でオーガニックランドの社員としてワタミに入社。21年千葉・群馬・長野の農場での修行を経てオーガニックランドに帰任したという若者です。

 

無償貸与されたキッチンカーやトレーラーハウスを活用したカフェも設置しました。木材を使用したハウス栽培3棟では、ベビーリーフなどを通年、露地には、夏野菜やハーブを栽培しています。バーベキューができるハウスも設置し、食事には1棟で100名入れるようにしました。3棟で最大300名まで可能にしています。2時間、3時間、6時間の3種類の体験プログラムに、年間利用数は9,573名(21年度)になりました。「資料を基にクイズを交えて現地で説明を聞く為、震災や復興だけでなく、農業、環境、エネルギー等わかりやすい説明であった。その後の食事にも内容をつながっていてよかった」と参加者の一人。

 

日本初のオーガニック(有機・循環型社会=命)のテーマパークとして、「ここに来れば循環型農業、有機農業が学べる」という場にして、将来「修学旅行の聖地」にするのが目標です。

 

〇取材・撮影 2022328日 高橋喜宣

 

〇初出:「市民発電所台帳2023」この原稿の短縮版を発表
〇参考資料ワタミ、ソーラーシェアリング事業が特別賞 ぶどう栽培での有効活用が評価 

(環境ビジネス 2023年11月24日)

HTTPS://WWW.KANKYO-BUSINESS.JP/NEWS/9EC01A8D-EDA6-4E2B-8327-7327A98A12B3?UT

ソーラーシェアリングとワタミオーガニックランド
ソーラーシェアリングとワタミオーガニックランド
修学旅行の聖地を目指す、ワタミオーガニックランドの食事会場100人収容
修学旅行の聖地を目指す、ワタミオーガニックランドの食事会場100人収容
ワタミオーガニックランドでは3月にも作物育て
ワタミオーガニックランドでは3月にも作物育て

●ソーラーシェアリングでマイナスからの地域復興 その3

―発電事業に立ち塞がった大きな壁―

 

     岩手県初の自家消費+ノンファーム接続

 

 このソーラーシェアリングは自家消費+余剰逆流(ノンファーム接続)という岩手県では初の事例でした。222月竣工、総工事費約1億円(うち、環境省補助金約5000万円、ワタミエナジー寄付金1861万円)。4月には完成しましたが、「システムができていないから接続できない」と東北電力ネットワーク(一般送配電事業者)によって半年間接続されないまま放置されたのです。

 

 「ノンファーム型接続」とは、発電所からの電源を新たに系統へ接続する時、通常なら接続できない状況でも一定の条件を受け入れてもらい、接続を認める取り組みです。系統は無制限に電気を送れるわけではなく、上限容量が決まっています。同時に容量を超える電気を流そうとすると、キャパオーバーになってしまい、障害が起きてしまうからです。東北電力ネットワークは電気接続に空き容量がないとしていますが、実際は東北電力管内ではそうなっていないという反論はあります。

 

 「経済産業省エネルギー資源庁に相談した後、完成から半年後、何とか接続になりました。他では大丈夫でしょうか。こうした余剰逆潮流の再エネ電気の有効な活用が、FIT後、日本の地方に再エネを普及させるときの最大のポイントになると感じています」と小出さんは強調しています。

 

     地元の陸前高田発酵パーク「CAMOCY」の理念にも重ね

 

 更に、地元の醤油メーカーの八木澤商店が企画した陸前高田発酵パーク「CAMOCY」に店舗を置き、しみんエネルギーが自家消費太陽光発電と薪ストーブを設置し、長期的に回収していくモデルをテスト中です。施設内には、発酵定食、発酵デリ、パン、チョコレート、クラフトビールなど、発酵なしには作れないものをおいしく楽しく提案しています。

 また、CAMOCY暖房はほぼ薪ストーブ(約100万円)でとっています。「基本的にカモシーとの信頼関係(入居前提)で構築できたモデルです。現在、しみんエネルギーがリース会社に薪ストーブのリース料を払い、薪代に管理費を上乗せしてCAMOCYに請求させて頂いております。投資回収は15年です。これを横展開したいと思っていますが、地元での薪生産が課題です」と小出さん。

 

     グリーンスローモビリティで電気需要家の理解、EVメーカー設立で雇用創出へ

 

 更に、しみんエネルギーが中心となって、224月から自家用有償旅客運送も始めました。使用しているのは、ECOM4の低速小型電気バス。群馬県桐生市の製造会社が群馬大学と共同開発した独自設計のバスで、製造、部品も手作り。天井にはソーラーパネルを装備しており、晴れた日にはバッテリーの補助を行います。バッテリー(リチウムポリマー電池)に一回のフル充電(約8時間)で、30km35kmほど走行ができます。1台約1千万円。(導入実例として「市民発電所台帳2020」に「でんき宇奈月」の活動として紹介しました)

 

 休日は毎日(乗り放題500円)、平日は3日間(1100円)で運行しています。しみんエネルギーの一部の利益を補填しています。車両は環境省の補助金で市が購入して、無償貸与されました。「ドイツのシュタットベルケでは、エネルギーの利益を赤字の公共交通機関に当てています。しみんエネルギーも同様にすることは、電気の需要家の理解を得ることを前提として良いと思っています」と小出さん。

 

 更に「陸前高田市の皆さんは、震災時にエネルギーがなく大変だったことを経験しています。そこで、地域企業・大学連携でEVメーカー設立を検討中です」としみんエネルギーは更なる高見を目指しています。

 

取材・撮影 2022328日 高橋喜宣

 

 

初出:「市民発電所台帳2023」この原稿の短縮版を発表
参照: ノンファーム型接続ってなに?改めて解説 | 太陽光発電・電力売買ドットコム

https://taiyou-denryoku-hikaku.com/column/non-farm/

陸前高田発酵パーク「CAMOCY」の駐車場
陸前高田発酵パーク「CAMOCY」の駐車場
陸前高田発酵パーク「CAMOCY」内部
陸前高田発酵パーク「CAMOCY」内部
陸前高田市役所を通る、ECOM4の低速小型電気バス
陸前高田市役所を通る、ECOM4の低速小型電気バス

その8

こなんウルトラパワー西寺太陽光発電所 再エネで地域力高め課題解決

こなんウルトラパワー西寺太陽光発電所といも栽培
こなんウルトラパワー西寺太陽光発電所といも栽培

【こなんウルトラパワー西寺太陽光発電所 再エネで地域力高め課題解決】その1

 

 滋賀県湖南市は20129月全国に先駆けて「湖南市地域自然エネルギー基本条例」を制定し、市民共同発電所との連携、こなんウルトラパワー(湖南市出資割合50.86 %の地域電力会社)を核にした地域自然エネルギーを推進しています。中でも「ウルトラパワー西寺太陽光発電所」は発電出力19.5kWと小さいながら、障がい者、市民、農業関係者、行政が「共に支え合うまちづくり」そのものになっています。

 

 19年「こなんウルトラパワー」が市の旧水道施設の場所にソーラーシェアリングを設置、「こなんイモ・夢づくり協議会(以下協議会)」に管理業務を委託しました。市は規定に基づき当該土地の使用を許可、周りの農家も駐車場や水を提供しています。

 

●「緑の分権改革」からスタート、市民共同発電所へ発展

 

協議会長の溝口弘さんは11年から市の「緑の分権改革」に関わり、地域の環境・福祉資源(ヒト・モノ)を活かした「障がい福祉」「観光・特産品」「自然エネルギー」の3つのプロジェクトを軸として、地域循環システムの構築に取り組んできました。

 

溝口さんが代表理事を務める「一般社団法人コナン市民共同発電所プロジェクト」はそのプロジェクトのひとつ。例えば、初号機「バンバン市民発電所」(20.8kW)は資金集めに関係者と市職員が一緒になって市民への声がけや企業回りをし、市広報誌への掲載も行いました。その結果、3カ月ほどでの出資額800万円を集め、132月に発電を開始させています。太陽光バネルは障がい者支援施設「バンバン」に設置し、賃料を支払っています。

また、発電所で得られる売電益を投資家に地域商品券で配当し、地域活性化に取り組んでいます。また、参・四号機は公共施設の屋根に設置、災害時には非常用電源として利用できるようにしました。

 

〇取材・撮影 2023.7.17 高橋喜宣

 

〇初出「市民発電所台帳2023

【こなんウルトラパワー西寺太陽光発電所 再エネで地域力高め課題解決】その2

 

●「空中栽培」との出会いで、ハンディある人たちの参加の道開ける

 

「太陽光パネルを使った『市民共同発電所運動』(4基稼働中)で一定の成果を得ていましたが、ハンディのある人達が参加されていない現状が課題でした」と溝口さんは振り返ります。というのには、溝口さんは再生可能エネルギー事業をするかたわら、株式会社なんてん共働サービスを立ち上げ、小規模多機能型居宅介護事業所2ヶ所を運営するなど福祉にも携わってきたからなおさらハンディのある人達への思いがありました。

 

ハンディある人たちの参加という課題解決のヒントを、近畿大学鈴木高広教授の提案するサツマイモの「空中栽培」方式の講演会で見つけたのです。「イモが日本を救う!」の著者鈴木教授とアドバイザー契約を結びました。空中栽培とは、棚の上に土と苗を入れた袋を置いて育てる方法。単位面積当たり畑での栽培の3-8倍の収穫が見込めるといいます。これなら、ハンディを抱える人たちも温暖化防止の担い手になれると、1411月に協議会を設立。市内の休耕田、高齢者施設、市民団体などの施設で、サツマイモの空中栽培を始めました。

 

また、そのイモを発酵させてメタンガスを収集し小規模なイモ発電を、助成金の活用で実現しました。実験場は使われなくなった市の資源再利用工場に設置。空中栽培で育てたサツマイモを細かくしてメタン菌を入れて発酵する、発酵を促すために堆肥の中にタンクを埋め込み、ホースを通じて袋に貯める仕組みです。

 

イモ発電には、収集したメタンガスの不純物(二酸化炭素や硫化水素)をできるだけ取り除きガスを圧縮して発電機に送るための装置が必要です。市販の装置を購入して、地元の企業に改造していただきました。しかし、実用化までには資金や技術面で課題が多く、実験のみで現在休止中です。

 

鈴木教授のお話では、30%の日光があればサツマイモは育つとの事だったので、場所は考えずに棚を設置しましたが、植えたベニハルカの収穫量が思うように育たなかったです。そこで、パネルの間に位置を変えたら、収穫量が2割アップしました。

 

雨水も貯めていますが、水は許可を得て、近くの農業用水をポンプでくみ上げています。しかし、田んぼの水を抜く「落水」のとき、水が流れないので水不足になります。ソーラーシェアリングの下はもともとコンクリートだったので、土壌栽培には適せず、空中栽培しかなかったのです。

更に、空中栽培で収穫したサツマイモを利用し、協議会は六次産業化としてリンゴとサツマイモの酵素シロップ「いもっぷ」という特産品を開発しました。ここぴあ・JA石部店、岩根まちづくりセンターなど市内で販売していますが、その売上は伸び悩んでいます。

 

 

     作物を育てながら、必要とされると感じ生き甲斐にも

 

協議会は、業務委託料として契約期間の17年間にわたり売電利益の半分を得て、作物の水やりを市内の福祉作業所に委託できるようになりました。

イモの空中栽培は3段以上重ねて栽培できますが、ここでは障がい者が水やりしやすいように2段となっています。協議会の会員でもある社会福祉法人「さつき会」の作業所の皆さんは、平日毎日水やりに来ています。「暑い暑いといいながら、楽しいですよ」と車椅子の長谷翔太さん。「このソーラーシェアリングの下で、地域事業のために働くことは、障がい者の生きるエネルギー(働く意欲)も創り出してくれます」とさつき作業所の楠田貴之所長。さつき作業所は高校卒業後の18~60歳の重度の障がい者の居場所になっています。「普段は、事業所で活動していますが、ここは地域の人と一緒に作物を育て、人から頼りにされていることを実感しながら働けます。それが生き甲斐につながると考えています」と説明してくれました。

〇取材・撮影 2023.7.17 高橋喜宣

 

〇初出「市民発電所台帳2023

【読者の声】

・自治体と市民が共同して地域発電所を開拓している姿はほれぼれしますね。ご紹介ありがとうございます。

(高橋)コメントいただきありがとうございます。

この事例はFEC自給圏+Wにぴったりと思い紹介しました。FEC自給圏とは、食糧(Foods)とエネルギー(Energy)、そしてケア(Care=医療・介護・福祉)をできるだけ地域内で自給することが、コミュニティの生存条件を強くし、雇用workを生み出し、地域が自立することにつながることです。

当初、「市民発電所台帳2023」には1頁としていましたが、2頁にしてもらいました。

再エネ施設は作ればいいというものではありせん。

地域や地域の課題解決につなげなければなりません。

 

 

・大切ですね。地域の方との交流もできるなら尚更です💕💖✨

ほーすごい