再エネ事例紹介(太陽光編その1)

高橋喜宣が実際に取材してこれまで書いてきた原稿です。

1 かやの木発電所  生徒会役員選挙公約を地域ぐるみで実現

2 松江の家   50万円でオフグリッドハウス実現

3 新潟スワンエナジー  地域再エネを地域へ届け、脱炭素化に貢献 

4 南阿蘇村 農家の「ヨメ」の飽くなき挑戦 「食べ物もエネルギーも景観もつくる農家」に

5 ところざわ未来電力 市域の再エネ普及に新電力設立

6 つなぐつながる発電所地域の課題解決を目指す

7 再生可能エネルギーに取り組む川崎市民たち

8  脱原発・再エネ普及再生可能の願いを込め、ついに4号機売電開始

9 原子力に依存しないエネルギー自立を目指し、会津地域初のメガソーラー発電所

10  低速電動コミュニティバスMAYU、天井にはソーラーパネルを装備

 


その1

長野県飯田市かやの木発電所  生徒会役員選挙公約を地域ぐるみで実現

長野県飯田市旭ヶ丘中学校かやの木発電所
長野県飯田市旭ヶ丘中学校かやの木発電所

長野県飯田市かやの木発電所 

生徒会役員選挙公約を地域ぐるみで実現

設置者:旭ヶ丘中学校太陽光発電事業推進協議会・おひさま進歩9号㈱ 発電出力:57.24kW

 「自分たちでエネルギー問題を考え、学校で太陽光発電をして持続可能社会に貢献しよう」と中学生が生徒会役員選挙の公約に挙げて当選。その熱意に、校長先生や地元の自治組織が動かされ、後輩に引き継がれ2年越しに実現しました。そして、現在も環境学習に活用されています。

始まりは2014年の旭ヶ丘中学校の副会長候補だった羽田野勇二さん。福島第一原発事故を踏まえて、再エネ発電所の建設を思い立ったそうです。それが中学校の生徒会、PTA、教職員、「伊賀良まちづくり協議会」、「山本地域づくり委員会」の5団体による「旭ヶ丘中学校太陽光発電事業推進協議会」の設立につながりました。そして、163月に南校舎屋根に「かやの木発電所(57.24kW、建設コスト約1600万円)」を建設させました。 
  

中学生の発案での発電所建設は、地域主体に476ヶ所、出力合計9,256Wの発電所を建設し、おひさま進歩9()の親会社である「おひさま進歩エネルギー株式会社(以下おひさま進歩社)」でも初。ドイツでは中高一貫校「独仏ギナジウム」に発電事業会社「シュコライレ」を設立し、生徒たちが運営している例はありますが、生徒の発案ではありません。おそらく日本でも他に例はないでしょう。

 

運営は、2015年「みんなとおひさまファンド事業(出資者は飯田市や全国)」のために設立された特別目的会社「おひさま進歩9号㈱」が独立会計で、FIT売電利益で建設費用を返済します。また、この事業は飯田市の地域環境権条例による「地域公共再生可能エネルギー活用事業」の第8号事業に認定されました。

 

 売電収益のうち毎年10万円が20年間旭ヶ丘中学校太陽光発電事業推進協議会に寄付され、生徒による環境活動や地域活動に活用されています。発電量の分かるモニターを設置した他、「考えよう! 誰が困るかこのゴミで」というような標語を作りプロの看板屋に発注、ゴミ投棄の地域問題解消にも役立てています。担当するのは生徒会「福利委員会」。「自分たちのできることでCO2を減らしていきたい」と電気の節電も呼びかけてきました。

 

 一方、おひさま進歩社は今も中学校の環境学習を支援しています。毎年の環境学習の折には、発電所の防災機能や操作方法について、パワーコンディショナーの自立運転の切り替え方や連系(通常)運転に戻す方法を生徒と先生に説明しています=写真。パワーコンディショナー(変換器)計9台が校舎1階倉庫に設置されていて、1台につき最大1500Wの電気を使うことができます。また、専用パネルから充電できる蓄電設備も体育館に確保しています。

 

 「旭ヶ丘中学校が避難所になっていることも知らない生徒もいますが、子どもたちが主体的にやっていること、声を上げることで発電所を設置できたと知ってほしい」と学校の先生も語っていました。生徒側も、環境学習で学んだことをクイズ形式にし、「おひさま新聞」を発行して全校生徒に知らせていく計画です。

 

 おひさま進歩社の電源開発と環境学習を担うのはこの中学校の卒業生。大学卒業後に総合住宅会社の勤務を経て、故郷の飯田市へUターンした、片山裕也さんは「中学校の環境学習にこの発電所を生かしていきたいですね。パワーコンディショナーなどを実際に操作することで、持続性のあるエネルギーとは何か、世界のエネルギー事情はどうなっているかなど知るきっかけをつくりたいです」と話していました。 

 

取材2021.9.15  初出 「市民発電所台帳2021」

長野県飯田市旭ヶ丘中学校かやの木発電所のパワコン、©写真提供:おひさま新歩エネルギー㈱
長野県飯田市旭ヶ丘中学校かやの木発電所のパワコン、©写真提供:おひさま新歩エネルギー㈱
長野県飯田市かやの木発電所の他に非常用独立電源©写真提供:おひさま新歩エネルギー㈱
長野県飯田市かやの木発電所の他に非常用独立電源©写真提供:おひさま新歩エネルギー㈱
©中日新聞
©中日新聞

facebookの反応より

・素晴らしいですね
これぞ学校の、そして太陽光発電のあるべき姿だと思います。
こちらの取り組みが、理想的でロールモデルとなるといいなと思います。どこかメディアにはPRされていらっしゃるのでしょうか。
あまりにも素晴らしい事例なのでメディア掲載に繋がるようなお手伝いができればいいなと思っておりました。

その2

 

東京都江戸川区松江の家 50万円でオフグリッドハウス実現

東京都江戸川区松江1丁目にあるオフグッドハウス「松江の家」
東京都江戸川区松江1丁目にあるオフグッドハウス「松江の家」

松江の家:50万円でオフグリッドハウス実現

 

 写真は、東京都江戸川区松江1丁目にあるオフグッドハウス「松江の家」。電力会社と契約せずに、電気をすべて屋根上の太陽光発電所で賄うという家だ。この家は宗教法人所有の築50年以上たっている空き家だった。電力会社と通電していない戸建て住宅を、子どもの権利に関する活動を行っている市民団体が活動拠点として、夜はろうそくで活動していた。

 

 そこで、20154月NPO法人「足元から考える地球温暖化を考える市民ネツトえどがわ(足温ネット)」は、NPOが区内に設置した市民立第二発電所の太陽光発電パネルをニューアルしたので、取り外したパネルの再活用先としてここに150×6枚のパネルを設置。充電器も、ゴルフカート用の中古鉛パッタリー150Ahの6個で、6000×6=36千円で仕上げることができた。電気工事含め約50万円で完成させた。例えば、㈱イスズはオフグリッドの2階建てログハウスでは、床面積34坪で、太陽光、蓄電池を全部含めて坪単価100万円に比べると、中古でも格安だ。

 

 但し、今のパネルの発電量では冷蔵庫も掃除機も使えない。扇風機やプロジェクターまでは使え、学習会も開催されている。暖房には石油ストーブを使っている。

 

 2021年2月に開催された「脱炭素チャレンジカップ」において、同法人は企業・団体賞を受賞、「再生可能エネルギーによる市民共同発電所の運営や省エネ家電への買い替えの促進、オフグリッドハウス『松江の家』の運営等、具体的な実践活動を通じて、気候変動の影響が少ない地域社会の脱炭素化をめざしている」

                 撮影・取材 2021.12.4

ドロン動画はhttps://www.facebook.com/watch/?v=253956772961074

 

「松江の家」の太陽光パネル
「松江の家」の太陽光パネル
オフグッドハウス「松江の家」の充電器(元ゴルフコートの充電器)
オフグッドハウス「松江の家」の充電器(元ゴルフコートの充電器)

その3 新潟県新潟市

 

新潟スワンエナジー  地域再エネを地域へ届け、脱炭素化に貢献

©新潟スワンエナジー㈱ 中央卸市場発電所
©新潟スワンエナジー㈱ 中央卸市場発電所

中央卸売市場発電所、新田清掃センター小水力発電所

地域再エネを地域へ届け、脱炭素化に貢献

 

●地域再エネを地域へ届け、脱炭素化に貢献 

●太陽光:247.5kW、小水力:9kW

 

*設 置 者:新潟スワンエナジー株式会社

 

 「地域の再エネ電力を地域に供給し、脱炭素化に貢献したい」という新電力が201911月から市内の公共施設(約140施設)と民間企業に電力を供給しています。その電源の約8割が市内と近隣市町村の発電所というのが特徴。域外のFIT電気を入れれば、59[松元1] 2020年度実績)が再エネです。事業の収益の一部は市に還元され、低炭素化事業に活用されています。

 これは新潟県初。新潟市・JFEエンジニアリング株式会社・株式会社第四北越銀行は197月に地域新電力「新潟スワンエナジー株式会社」を設立しました。市は「2050年二酸化炭素(CO2)排出ゼロ」を表明する329全国自治体の一都市として、50年CO2削減目標を13年度比80%と定め、その実行性を確保する施策の柱としました。

市は資本金5000万円の内10%500万円を出資。また、JFEエンジニアリング株式会社(以下「JFE」)が85%・4250万円の出資、地域の株式会社第四北越銀行が5%・250万円を出資し、官民連携事業会社の設立を実現しました。社の方針決定は3者合同で行われ、新潟市の環境政策に沿った内容で事業を進めています。新潟スワンエナジーは、地域を低炭素化し、地域の経済を活性するという両輪の好循環を生み出そうとしています。

213月新潟市中央卸売市場総合食品センター棟の屋根に247.5kWの太陽光発電設備=写真=を第三者保有(PPA)モデルで設置し、運用・保守を行っています。設置に係る部材調達・工事等については、市内事業者に委託しました。

もともと新潟スワンエナジーは同市場に電力を供給していましたが、太陽光発電設備設置後は同設備により発電された電力を供給し、不足する分はこれまで通りの方法で電力を供給しています。需要側のメリットは太陽光発電設備設置に伴う初期投資と維持管理費などが不要であること、自家消費分電気代再エネ賦課金分が引かれるために電気代が削減できること、CO2が削減(同市場の場合:約137t/年)できること等が挙げられます。更に停電時の電源として活用もできます。供給側は20年の自家消費電力購入契約を結び電気代(同市場の場合:307,000kWh/年)の支払いを受けることができます。事業化にあたっては、環境省「サプライチェーン改革・生産拠点の国内投資も踏まえた脱炭素社会への転換支援事業」に応募し採択され、補助金(設備費5万円/kW、工事費定額10万円)を活用しました。

(筆者の試算では、約1245万円の補助金を得たことになる。5万円×247kW+10万)

 

しかし、コスト増の要因もありました。この施設はパワコンをパネルから通路を挟んだ区間に設置しなければならず、その通り道にトラック通路があったためケーブルを地下化したこと。また、余剰電力はほぼ発生しないものの、若干逆流が起こる時間帯があるため逆流防止装置を設置しなければならなかったことです。この事例は経済産業省資源エネルギー庁の「再エネガイドブックweb版」に「オンサイトPPAモデルによる自家消費型太陽光発電設備の導入」として大きく取り上げられています。

 

http://renewable-energy-concierge.go.jp/activity-example/72

 

また、214月に新田清掃センターに小水力発電設備を設置しました。工場の機器冷却水(使用水量0.05/秒、落差約26m)を活用し、年間約64,000kWh(CO2削減効果30/毎年)の電力を公共施設に供給しています。

今売り出し中は「地域の再エネ(FIT100%の電気プラン」。地域の再エネ(FIT)電気分を、再エネ由来の非化石証書等でオフセットすることにより、実質再エネ100%「CO2フリー」を実現しています。地域の再エネ(FIT)を活用した再エネ100%プランは新潟県内で唯一同社のみが提供するプランです。(20219月現在同社調べ)

 

「地域の再エネを積極的に調達し、新潟市地域の再エネ電源主力化を実現していきたい」と同社営業部の松元あゆみさんは語っていました。

高橋取材 2121.09.09 初出「市民電発電所台帳2021」を若干訂正した。

参考 

浄水場に「オンサイトPPA太陽光」、新潟スワンエナジーが供給

 

浄水場に「オンサイトPPA太陽光」、新潟スワンエナジーが供給 - ニュース - メガソーラービジネス : 日経BP (nikkeibp.co.jp)

 

 

写真提供©新潟スワンエナジー 新田清掃センター小水力発電所
写真提供©新潟スワンエナジー 新田清掃センター小水力発電所

その4 熊本県阿蘇郡南阿蘇村

農家の「ヨメ」の飽くなき挑戦 「食べ物もエネルギーも景観もつくる農家」に

イラスト©大津愛梨さん
イラスト©大津愛梨さん

農家の「ヨメ」の飽くなき挑戦】

「食べ物もエネルギーも景観もつくる農家」になりたい

 

 「(農家は)親が楽しくやっているのを見せるしかない」

コロナで学校が休校になって、息子たちが田植えを手伝ってくれた。

「やるね」と言ったら「何年やっていると思っているんだ」とやり返された。

「(上の息子たちは)今は野球に夢中」。

 「食べ物も、エネルギーも生み出す」農業を目指してきた、熊本県阿蘇郡南阿蘇村の米農家・大津愛梨(おおつえり)さんの話を、理事をするNPO法人市民電力連絡会の連続セミナーで伺った。冒頭は後継者の質問の回答だ。

再エネ業界の人には「日本と再生 光と風のギガワット」に登場した南阿蘇村の女性といえば、思い出すかもしれない。「私はドイツで勉強してきたので、『牛乳もエネルギーも売る』という農家さんを多くみてきました。ドイツでできたことを日本でできないことはない」と映画で発言していた。

 撮影後4日後、2016年の熊本大震災のときには「皆ピンピンしています」と停電時にはソーラーから充電した電気で生活していたという報告のシーンが映画にあった。

 今は、結婚20周年で買ってもらった電気自動車リーフに、家庭の家の10kWとブチソーラー5.6kW(景観を守りたいのでプチのみ)の電気を貯めて、動く蓄電池に貯めて夜に使っている。完全にオフグリッドではない。リーフは値段が高いが、子どもたちの送り向かいなど年間3万キロガソリン車で走っていたので、元は取れそうだという。

 住む約30世帯の集落は大半が「大津」。「農家をしっかりやっているから、いろんなことをやっても、集落の人たちは大目に見てくれている」。

 「エネルギー事業を農家の経営安定のためにやるべきだ。でも、耕作放棄地に太陽光においても、20年そこに置いたら元に戻せない。農業には幾つもの支援はあっても、ソーラーシェアリグをしようとしても、発電事業にはならない。農業事業として出すべきだ」というように具体策を出す。

 トラクターは補助金を使って購入。バイオディーゼル燃料を使っている。これが安くはない。熊本大震災の普及工事にバイオディーゼル燃料を使っているので、地元の友人から軽油と同じ価格で買うことができている。

 「アーリーリタイアで農業をしたい」という質問に、ここに若い女性が二人来ている。一人は旅館に働きながら米も作る。もう一人は農業をやりながら、幼稚園で働いている。

 「半農+Xという生き方を勧めていきましょう」など、農家の「ヨメ」の飽くなき挑戦は続いている。

大津愛梨さんについては下記を参照ください。

https://ja.wikipedia.org/.../%E5%A4%A7%E6%B4%A5%E6%84%9B...

【注意】写真は大津さんの許可を得て、掲載しました。私のものではないので、この3枚の写真は二次使用はしないでください。


2021.6.5の市民電力ゼミナーでの大津さんの講演を基に高橋が記事に。講演の内容より、質問タイムのときのものです。

 

  =動画 https://youtu.be/xv6kdMbimYo  資料はこちら(クリック)

©大津愛梨さん

©大津愛梨さん


その5 埼玉県所沢市

 

株式会社ところざわ未来電力   市域の再エネ普及に新電力設立

埼玉県所沢市・株式会社ところざわ未来電力 

市域の再エネ普及に新電力設立

 

 「市では、その理念(RE100 Renewable Energy100%)に賛同し、毎月25日を「RE100の日」として、その日1日の市庁舎の使用電力を再生可能エネルギー100%にします。 “そろそろ本気で考えてみませんか、地球のこと”は、所沢市環境クリーン部環境政策課のチラシの文面だ。

 

埼玉県所沢市(人口34.4万人)は「マチごとエコタウン」推進計画を制定し、市域の再生可能エネルギーの利用を推進し、地域新電力事業に乗り出している。

 

 去る1123日、市民電力連絡会の第7回講座「首都圏でチャレンジ! 市民共同発電型ソーラーシェアリグ実践・奮闘編in所沢」にて、所沢市環境クリーン部長より再生可能エネルギー普及事業について伺った。

 

 所沢市は東日本大震災原発事故から「幸せの物差し」を見つめ直し、「所沢市まちごとエコタウン推進計画」を設定。基本理念の3本柱のひとつに「持続可能な環境づくり」を掲げ、「未来の世代に継承していくため、エネルギー、みどり、資源などを大切にしていきます」と低炭素社会の構築のため再生可能エネルギーの利用推進をしている。そして、昨年20185月には、市の上下水道局庁舎内に㈱ところざわ未来電力(代表取締役:市副市長、資本金1千万円51%出資)を立ち上げた。

 

調整池の上にあるフロートソーラー所沢385kw=下1番目、市のメガソーラー所沢1053kw=下2番目、小中学校の屋根貸し933kw、ごみ発電の東部CC5000kw、合計7371kwの電気を、市の公共施設など99ヶ所に供給している。また、ソーラーシェアリグを希望する農家に、上限額200万円で経費の1/5を補助している。

 

中之条町では「再生可能エネルギーのまち」と役場前にポールを掲げ、再エネ条例のもと自治体新電力会社を立ち上げている、というと「小さな町だからできる」と言われた。しかし、ドイツのシュタトペルケの話をするまでになく、日本の都会でも具体的に再エネ推進が行われている。現実は私たちの考えより進んでいるのだ。

 

高橋撮影・取材:20191123

 


その6千葉県市川市

 

いちかわ電力・つなぐつながる発電所  地域の課題解決を目指す

いちかわ電力・つなぐつながる発電所
いちかわ電力・つなぐつながる発電所

千葉県いちかわ電力・つなぐつながる発電所

地域の課題解決も目指す

 「私たちは再エネの施設を単に作るだけではなく、そのエネルギーを使ってホームを支援するという地域の課題解決も目指しています」とNPO法人いちかわ電力コミュニティ副理事長は話す。

 

 20185月、市川市内で自立援助・児童発達支援をおこなっている「社会福祉法人 一粒会」の施設に第1号発電所が完成した。カーポートの上に設置されたパネル30枚の5.4kWの小さな発電所ではあるが、子どもたち、教育機関、金融機関をつなぐ一助になればと願う、「誇り高いビジョン」を掲げている。

 

 この施設には、障がいを持った0才から小学校前の子どもを平日日中預かる施設と、15才から20才までの「生活共同体」である児童自立支援ホームがある。発電所の名前「つなぐ・つながる発電所」はそこの子どもたちの考えたものだ。

 

 発電された電気は、この施設でそのまま使ってもらう。施設には通常の電気より安く提供することで支援している。その売電と余剰電気の売電で、事業会社「いちかわ電力合同会社」の社債の償却に充てている。15年後には設備は施設に寄贈する予定だ。

 

 ここまで達成するには「涙、涙の候補地探し」だったという。2015年に準備会を設立、2016年にNPOを立ち上げながら、市のビジターセンター(緑地内での環境学習のための拠点となる施設)に30kWを計画、また線路沿いの市有地に55kWを市に提案。何度も交渉を重ねてきた。他にも候補地を探し続けているが、実現できなかった。

 

 そして、今、第2号機発電所も常備中だ。「気候変動の防止に寄与し、地域の活性化と住民の安全と福祉、子どもたちの健全な未来に資するため、市川市及び周辺地域において持続可能な再生可能エネルギーを普及させるための活動を行っています」。

 

高橋取材・撮影:20191125日 同発電所お披露目式にて)

 

 

いちかわ電力・つなぐつながる発電所の看板
いちかわ電力・つなぐつながる発電所の看板
いちかわの電力・つなぐつながる発電所のパワコン
いちかわの電力・つなぐつながる発電所のパワコン

その7 神奈川県川崎市

再生可能エネルギーに取り組む川崎市民たち

原発ゼロ市民共同かわさき発電所1号機、25kW、2015.2の通電式の様子
原発ゼロ市民共同かわさき発電所1号機、25kW、2015.2の通電式の様子

再生可能エネルギーに取り組む川崎市民たち

 

 私たちの住む川崎市中原区には、市民が作った発電所が2ケ所ある。1基は川崎市国際交流センターの屋上に、もう1基はそこから徒歩5分のアパート屋上にある。3基目は両方ともに市民の志から生まれたものだ。

 

(1)川崎初の市民共同おひさま発電所

 

 2008年、「市民や事業者の寄付による再生可能エネルギー設備の設置を通して、地球温暖化防止活動に取り組む」として建設されたのが市民共同おひさま発電所だ。CO2を出さない太陽光発電設備を設置したい。川崎市国際交流センターには、各国の人たちが集まる場所。地域も人も世界中の人も地球温暖化防止について考えよう。こうした呼びかけで、みんなで募金活動をスタートし、市民、団体、商店街の皆さんから3,419,427円の募金を集めた。

 

 当時の太陽光設備は今に比べるとても高価で、6.25kWの設備の事業予算総額は約860万円。設備費用の85%の700万円はGIACグリーン電力基金地域協働プロジェクト助成を受けた。しかし、設備建設の領収証がないと助成金が受けられない。そこで、個人が保証人となって、AP BANKから500万円を年利1%でつなぎ融資を受けた。

 

 国際交流センターの玄関には、大型ディスプレイの太陽光発電設備モニターが表示されている。今も寄付者の名前もみられる。発電された電気は設備の電源の一部として使われている。

 

(2)具体的な行動へ若者中心でスタート

 

もう一つの発電所設置事業は若者が中心となってスタートした。「反対運動も大切だが、具体的に自分たちができることをしていきたい」と原発ゼロに向けて具体的な行動をしようと、2014年3月、20代~40代の川崎市民が中心になって「原発ゼロ市民共同かわさき発電所」を設立した。

その原点は福島第一事故。3.11以後に川崎に結成された「原発ゼロへのカウントダウンinかわさき」実行委員会の若手有志が、脱原発として再生可能エネルギー普及に取り組んだことに始まる。川岸卓哉理事長は現在33才の弁護士だ。そこに中高年も加わるようになった。18年4月末現在、正会員36人、サポート会員70人。その多くは川崎市でいろいろな市民活動をしている。現在、3基の太陽光発電所を建設し運営している。

 

(3)無利息の建設協力金で太陽光発電所建設

 

 川崎市は現在も人口増加し続ける151万都市。戦後、日本経済が発展するにつれて深刻な公害が生まれた。住民が条例制定運動を起こし、市は総量規制など当時全国一厳しい公害防止条例を制定して公害を克服しようとしてきたという歴史がある。市民活動も活発だ。そうした歴史を背景に、環境や平和に取り組む市民、保育・医療関係者、弁護士など市民活動の経験を積んだ市民が集まり、発電所の実現に動いた。

 

 14年7月にNPO法人化とスタートは遅かったが、翌年1月22日には川崎市中原区のマンション屋上にソーラーパネル100枚の最大出力25kWの1号機の発電所を建設した。マンションのオーナーは平和運動などに長年たずさわってきており、「原発ゼロの一言に飛びついた」と無償で屋根を貸してくれた。現在、当NPOの理事も務めている。更に同年8月、高津区の「川崎北部グループリビングCOCOせせらぎ」の屋上に16.5kWの2号機を完成させた。ここのオーナーも被爆者訴訟を支援してきて、当NPOの活動に賛同し建物の屋上を提供している。2基の建設費1340万円は無利息で市民が出資してくれた資金だ。ほとんどが川崎市民で、市民活動のつながりで以前からの知己であり、原発ゼロの志に賛同してくれた会員だ。

  

 そして、1号機、2号機ともに売電先を東京電力エナジーパトナからも生活クラブエナジーに変えた。

 

(4)3号機は医療機関にDIYで設置

 

 続けて3号機設置場所を募集してきたが、場所がなかなか見つからなかった。2年かけて念願の場所を横浜市鶴見区のうしおだ診療所に探し出した。経営母体の公益財団法人横浜勤労者福祉協会が当NPOの志に共感して無償屋根貸しをしてくれた。医療施設屋上に太陽光パネルを設置した例は全国的にも少ない。NPO市民電力連絡会が18年に全国553ヶ所の市民発電所を調べて結果では、医療施設4ヶ所。3ヶ所は歯科医院やクリニックだ。1ヶ所は122床を持つ病院だった。17年11月に完成させた3号機は全国で5番目の医療施設に設置した発電所となる。

 設備容量としてはパネル48枚、12.96kWと小さい。隣接に鶴見川があり、氾濫時に3階屋上に逃げる場所も確保したいという施設側の要望で屋根全面にパネルは設置していない。停電時には、非常用電気として使うこともできることも考えられている。万一の場合は医療も電気もある地域の災害支援施設になるだろう。

ここでは1号機・2号機にはない新たな試みをした。一つは資金集め。今までは個人から無利子の資金を全額集めたが、神奈川県「地域主導再生可能エネルギー事業費補助金」に応募し採用された。20年間 無利息で返済するというもの。残り1/3は県の指導により金融機関から借りることになった。城南信用金金庫からは銀行の融資審査が通らず断られたが、日本政策金融公庫から低金利無担保で融資を受けることができた。

 

(5)3号機は市民の手作り発電所に

 

 更に二つ目の新しい試みはDIY(DO IT YOURSELF)で太陽光発電所3号機を建設したことだ。DIYはプロと一緒に学びながら作るという市民参加型・体験型ソーラーパネル施行だ。屋根への荷揚げや電気ケーブル設置はプロが行い、市民は墨だし、架台の組み立て、コンクリートブロックと太陽光パネルの設置を行う。1本21キロのブロックを二人でロープを使いながら運ぶ仕組みや部品一つ一つにも工夫があった。研修中にNPO側から施工会社に木製の型をもうひとつ作ると計測しないで組み立てることができるとの提案もあり、2回目の研修に反映されることにもなった。「プラモデルを作るより簡単」「もう一度研修を受けないとわからない」という声が上がった。研修中には当NPOでも写真付マニュアルを作り、組み立て当日の10名の参加者にも配布された。参加者にはパネルの裏に思い出を書いてもらい、自分達で作ったという意識を高めてもらった。

 

 これらは小さな発電所ではある。だが、地球温暖化防止活動や原発に向け地域の力を結集した結果である。

2019年3月31日「中原地域フォーラム&シンポジウム」発行「中原の昔むかしから今、未来へ」の高橋投稿原稿から

 

 

川崎初の市民共同おひさま発電所
川崎初の市民共同おひさま発電所
原発ゼロ市民共同かわさき発電所3号機はDIYで建設
原発ゼロ市民共同かわさき発電所3号機はDIYで建設
原発ゼロ市民共同かわさき発電所3号機
原発ゼロ市民共同かわさき発電所3号機
原発ゼロ市民共同かわさき発電所3号機のパネルに思いを描く
原発ゼロ市民共同かわさき発電所3号機のパネルに思いを描く

その8

 

脱原発・再エネ普及の願いを込め、 ついに4号機売電開始!

原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機を井田山から望む
原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機を井田山から望む

神奈川県川崎市

脱原発・再エネ普及の願いを込め、ついに4号機売電開始!

 

 2020515日、原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機が川崎市中原区井田の住宅地で売電を開始しました。近くの区内唯一の丘陵地帯である通称「井田山」からも発電所を見ることができます=トップ写真、細長い建物の上。当NPOの中で最大の発電所。設備61.84kw(発電出力49.5kw)、太陽光発電パネル219枚、パワーコンディショナーは9台です。1号機の25kW・100枚の約2倍あります。国の再生可能エネルギー普及を妨げるような政策にも負けずに、また、新型コロナウイルスで経済が停滞する中でも、発電を続けています。

 

 今年20年度の固定買取価格制度(FIT)は事実上太陽光ではほぼ消滅したといえます。10kW以上50kW未満のような市民発電所は、13+税でしか販売できず、更に発電所の30%は自家発電に使わなければならないという規制もあります。これでは従来の方法では市民電力の発電事業は経済的に成り立たなくなります。例えば、15年に完成した1号機は32+税に販売しています。FIT制度は再エネ普及のための未来への投資です。消費者の電気料に上乗せられているので、安くなるには良いことです。世界中で大いに成果を上げていますが、日本ではFIT価格の低下に対応するほど建設コストやパネルは低下していません。そんな中、4号機は2年前から準備して18年に認定をとりましたので、18+税金で販売できます。

 

■ 異常気象に対応


 4号機は特に第1に安全面の対策に力をいれました。昨今の異常気象により、太陽光発電所施設に大きな被害が日本各地で発生しています。川崎においても、川崎初の公共屋根貸し事業の太陽光屋上施設が昨年の台風で一部飛ばされ、全施設撤去を余儀なくされました。そこで、当施設では、安全面を考えて、オーナーに、屋上の防水工事を自費でしてもらいました。その上で、賃貸マンション屋上の屋根全体に、くまなく架台を取りつけました。屋根の端周りのパネルが置かれていない屋上にもしっかりと架台の骨組みが配置されています。中央と横に太い梁を縦横に2本ずつ置きました。また、屋根の周りにあるパラペットにも、重量2150kgの架台全体とパネル重量4368kgを固定しています。設置会社によると、「かわさき発電所のために独自に設計しました」。パラペットにケミカルアンカーを120㎜の深さまで挿入、エポキシの樹脂で固めてナットで締め付けました。アンカーナット部分は紫外線防止の樹脂でコーティングしています。また、万一の事故発生のために休業補償保険を含む保険に入りました。

 

 資金集めに新しいスキーム(事業計画)

 

2にどのように資金を集めるか、株式会社自然エネルギー市民ファンドのお力をいただきました。そこで、 “無配当でおなかつ元本保証をお約束できない” 「無配当出資金」というスキームを利用して、無利子で資金を集めています。それでも脱原発につなげ、地域に安心できるエネルギーを増やすことを応援したい、という皆さんにご協力をお願いしています。

 

     トラブルの早期発見

 

 第3に発電量の遠隔装置を工夫しました。モニタがなくても発電はします。しかし、モニタがあれば、太陽光パネルの異常が把握され、トラブルの早期発見につながり、発電が止まって発電停止する被害を最小限に抑えられます。

1-3号機にはSMA Sunny Portal を導入していますが、4号機は「ラプラスL・eye」システムを採用しました。1セット(回線、サービス、補償も含む)28万円(税別)をかけました。安くはないですが、16年に販売以来、約18千件の導入実績があります。

 

こうした原発推進の傾向に負けないためにも、ぜひ私たちの脱原発と再エネ普及の志にご協力をお願いします。その利益は脱原発や再エネ普及のために使わせていただきます。

 

 

【参考文献】

〇経済産業省資源エネルギー庁HP なっとく再生可能エネルギー 固定価格買取価格制度

〇日能ビジネス発行隔月刊「地球温暖化」20205月号「太陽光発電監視アプリの開発 外出先でもトラブルの把握可能に ㈱ラプラス・システム」

 

 

原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機建設現場
原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機建設現場
原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機の特徴は台風に飛ばされない独自設計
原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機の特徴は台風に飛ばされない独自設計
原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機
原発ゼロ市民共同かわさき発電所4号機

その9福島県喜多方市

 

雄国太陽光発電所  原子力に依存しないエネルギー自立を目指し、 会津地域初のメガソーラー発電所

雄国太陽光発電所と佐藤彌右衛門さん(会津電力社長)
雄国太陽光発電所と佐藤彌右衛門さん(会津電力社長)

福島県喜多方市

雄国太陽光発電所

原子力に依存しないエネルギー自立を目指し、会津地域初のメガソーラー発電所

 

「16万人の『原発難民』を生んだ福島に、原発との共存はない」、「福島の脱原発はイデオロギーではない」と佐藤彌右衛門さん(会津電力社長)は話してくれました。

 

佐藤さんはもともと地元の 大和川酒造の九代目当主。会津電力の株主には地元の計 77 団体・個人(20186 月現在)がいいます。 8ヶ所の自治体(喜多方市、磐梯町、猪苗代町、西会津町、北塩原村、只見町、三島町、昭和村)、5 行の銀行(東邦銀行、福島銀行、大東銀行、会津信用 金庫、会津商工信用組合)がいるのが特徴です。

 

201869日、NPO法人原発ゼロ市民共同かわさき発電所の視察で、会津電力の第 1 期事業として建設された会津地域 初の「雄国 太陽光発電所」(発電設備容量1MW、パネル枚数 270W×3,740 枚、年間予想発電量 1,086,180kW 一般家庭約 300 世帯分相当、設備稼働開始 201410 月)を訪問しました。

 

高さ 2.4m30°傾斜のパネルは「雪国でも太陽光発電ができると証明したかった」という思いの現れです。実証実験を実施して試行錯誤の結果です。同敷地内には再生可能エネルギー体験学習施設「雄国大學」もあります。

 

「会津は食糧も水もエネルギーも豊富にあります。それが今まで都会に吸い上げられていました。都会だけが豊 第47号地方が豊かになっていく国造りに変えていかないとなりません」などなど、たっぷりと彌右衛門節を伺うことができました。 会社のスローガンは、「すべては未来の子供たちのために。会津電力株式会社は原子力に依存しない安全で持続可能な社会作りと会津地域のエネルギー自立を目指します」。

 

「神様や救世主を 待っていても世の中は変わらないと思う人々がいました」「原子力に依存しない世の中を創りたい」そうした心意気が参加者にも伝わりました。

 

 

● 201..15.NPO 法人原発ゼロ市民共同かわさき発電所発行「でん太通信」の投稿もとに時間修正しています。

雄国大學
雄国大學
雄国太陽光発電所
雄国太陽光発電所

その10 群馬県桐生市 ㈱桐生再生 

 

環境にやさしい低速電動コミュニティバス MAYU、天井にはソーラーパネルを装備

 環境にやさしい低速電動コミュニティバス  MAYU、天井にはソーラーパネルを装備
 環境にやさしい低速電動コミュニティバス MAYU、天井にはソーラーパネルを装備

群馬県桐生市 ㈱桐生再生 

 環境にやさしい低速電動コミュニティバス

 

MAYU、天井にはソーラーパネルを装備、天井にはソーラーパネルを装備

 

 ㈱桐生再生では、群馬県桐生市で「脱温暖化と地元振興を目指した」EVバスの運行している。去る107日、「過疎地でバス停に行けない人をどうするか、いろんなことを始めている」と㈱桐生再生の代表取締役清水宏健康さんは語ってくれた。

 

 「桐生のような地方の中規模都市では、生活形態や都市構造がマイカー中心となっていて、マイカーからのCO2排出量が極めて高いことに注目。一方で高齢化に伴い市民の足としての公共交通の整備が不可欠ですが、その維持が難しい現状があります」。そこで、「EV(=Electric Vehicle、電気自動車)の導入によって低炭素型の交通インフラを整備し、暮らしやすいコンパクトな低炭素型都市の構築を目指」す。

 

 愛称は「eCOM-8MAYU」。10人乗りの低速電動バス。桐生市の委託を受けて、土日祝日無料で市内の主要観光スポットを巡っている。昇降ドアや窓ガラスもない。時速19 ㎞でゆっくり走るため、町並みをじっくり楽しむことができる。冬はビニールカーテンを覆うが、コートを着ているので大丈夫。

 

 近くの製造者が独自に設計、製造、部品も手作りだ。天井にはソーラーパネルを装備しており、晴れた日にはバッテリーの補助を行う。家庭用の普通電気で充電ができ、「電気代も毎月3千円程度」。バッテリー(リチウムポリマー電池)に一回のフル充電(約8時間)で、30km35kmほど走行ができる。1台約1千万円。車椅子の方にも利用できる装置も一部のバスに150万円かけて導入したが、一人乗車に15分の手間がかかる。運転は普通自動車免許できる。

キャッチコピーは「電動で環境に優しい、低速で人に優しい」。

 

(参考:㈱桐生再生http://saisei.kiryu.jp/EVbus.html  )

 

 

高橋撮影・取材:2019.10.7

低速電動コミュニティバス  MAYU
低速電動コミュニティバス MAYU
 MAYUのバス内部
MAYUのバス内部