再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記

始めに:デンマーク、市民が「原発のない」社会を選択

【始めに:デンマーク、市民が「原発のない」社会を選択】

 デンマークは、市民が「原発のない社会」を選択し、再生可能エネルギー全体で言えば、2020年は80%を記録した国です。その上で、2022年の総合幸福度ランキングは、1位がフィンランド、2位がデンマーク。そして、その秘密はどこにあるのでしょうか?

 デンマークでも1970年代のオイルショックのとき、政府が原発推進の方向に傾きました。これに対して、若者を中心とする環境NGOが、原発の安全性や経済性の情報を集め、「原子力について市民が学ぶ機会をつくった」といいます。やがて、市民の意識の高まりで、1985年、政府は原発のないエネルギー政策プランを決定し、再エネの道に舵をきりました。

 

 201628日~2158日間、このデンマークの再生可能エネルギーと有機農業の生産者を訪れるスタディツアーに参加。そのとき現地情報をface bookにて発信しました。以下はそのレポートをこのホームページに再計上したものです。

目次

【始めに:デンマーク、市民が「原発のない」社会を選択】

1 再エネ100%を目指す、市民風車も10

2 自動車から自転車への転換 コペンハーゲン自転車事情

3 性的マイノリティに配慮したトイレ

4 へんぴ地から憧れの地に生まれ変った、再エネ100%のロラン島

5 風力発電所、現代のデンマークの風物詩

6 動物福祉を念頭に、100%完全有機農業を実現、目指すは世界一

7 牛の糞尿はコジェネの原料、現代の循環型社会に貢献

 8 ロラン島ではワラが体も懐も温めてくれる。地域暖房

参考資料
デンマークのスマートグリッド(日本語版) - YouTube
https://youtu.be/L6oGK_1tZsw
デンマークの送電会社Energinet.dk制作のスマートグリッドに関する解説動画に、原著作者の許可を得て日本語字幕を追加した日本語版です。  字幕翻訳:ニールセン北村朋子、監訳:安田 陽(京都大学特任教授)

 

 


再エネ100%を目指す国、市民風車も10基連続

コペンハーゲン・アマビーチパークから見える合計20基の海上風車
コペンハーゲン・アマビーチパークから見える合計20基の海上風車

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その1 

―再エネ100%を目指す国、市民風車も10基連続―

 

 先の世界大戦では世界中の町が戦火で破壊された。ここデンマーク・コペンハーゲンでは今なお戦争前の建物が多く残っている。戦火で町を破壊したくない、とヒットラーの侵略を許した。国王は白馬にまたがり、逃げない姿勢を示した。このような歴史がある、再エネと農業、福祉の国を訪問している。「この人に会いたい! デンマークの再生可能エネルギー&有機農業者を訪ねるスタディツアー」の一端の報告だ。

 

 写真はコペンハーゲン・アマビーチパークから見える合計20基の海上風車だ。高さ64m、羽の長さは76m、一基2NM10基はドンクエナジー社が所有しているが、10基は市民出資による市民風車だ。遠浅の海は透き通り、風車の土台には魚が集まり、アザラシも来るという。陸にも3基の風車が回っている。ここはドキュメント映画「日本と原発 その後」にも紹介されている風車はデンマークではあるが、こことは違うようだ。

 

デンマークは100%再生可能エネルギーを目指している。

 

コペンハーゲン・アマビーチパークから見える合計20基の海上風車
コペンハーゲン・アマビーチパークから見える合計20基の海上風車

自動車から自転車への転換 コペンハーゲン自転車事情

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その2

  自動車から自転車への転換 コペンハーゲン自転車事情

 コペンハーゲンでは颯爽と自転車を走りらせる姿が良くみられる。道路工事現場でさえ、自転車と歩行者がはっきり区別されているほど市内には自転車道路網が整備されている。町の広場の中央にも自転車道路が走っている。色や標識がなくともしっかり町に自転車が交通手段のひとつとして根付いているようだった。「鉄の馬」と呼ばれる自転車には子どもばかりか大人も載せている。

 

 最近は日本のようにカゴ付自転車も少し見られる。ママチャリならぬ、ババチャリと言われるそうだ。

 

 地下鉄や鉄道に自転車が子ども料金で載せられ、自転車用の固定装置もついている。しかし、町中央の日本でいう歩行者天国では自転車は歩くことになっているようで、皆が自転車から降りて、よく押しているのが見られた。

 

 こうした町が出来上がっているのはしっかりした政策がとられているからのようだ。会社は自転車通勤をすると、自転車通勤手当を出している。

 

facebookでのコメント

 

「自転車通勤手当」は、初耳です。会社としては、交通費が浮く分から払えばよく、痛みはなさそうですね。

デンマーク「鉄の馬」と呼ばれる自転車には子どもばかりか大人も載せている。
デンマーク「鉄の馬」と呼ばれる自転車には子どもばかりか大人も載せている。
コペンハーゲンでは、道路工事の車線も自転車と歩行者道路に分かれている。
コペンハーゲンでは、道路工事の車線も自転車と歩行者道路に分かれている。
コペンハーゲンの鉄道の中、自転車持ち込み可能
コペンハーゲンの鉄道の中、自転車持ち込み可能
コペンハーゲン、ホコ天はど自転車走行は禁止
コペンハーゲン、ホコ天はど自転車走行は禁止

性的マイノリティに配慮したトイレ、デンマーク

コペンハーゲン 性的マイノリティに配慮したトイレ
コペンハーゲン 性的マイノリティに配慮したトイレ

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その3

性的マイノリティに配慮したトイレ

 デンマークではホテルや公共で、男女共用のトイレをよく見かけた。これは性的マイノリティに配慮したトイレで、「どちらに入ったら良いか困らないようにしている」とガイドはいう。

 

 上の写真は広場にあったトイレのひとつ。管理人もいた。男性用専用ボックストイレは一つ、他は男女共用の個室だ。

 

 下は中央駅の男女別トイレ。自動販売機で5デンマーククローネのチケットを購入し、バーコードをかざして入る。

 

 日本の性的マイノリティの方はどちらに入るのでしょうか?

   コペンハーゲン中央駅の男女別トイレ
   コペンハーゲン中央駅の男女別トイレ

へんぴ地から憧れの地に生まれ変った、再エネ100%のロラン島

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その4】 

 へんぴ地から憧れの地に生まれ変った、再エネ100%のロラン島

 201610日から3泊、オランダのロラン島を訪れた。国内的にも「へんびなところ」と目されてきたが、今や再エネ100%の島として世界中から一目置かれている。日本からも政治家や著名人を含む多くの人々が訪れてきているという。

 

 こんな人、あんな人に会いたいという企画が「大地を守る会」で生まれ、やっと暇な冬にこのスタディツアーが実現された。「世界一の有機農業を目指す」などチャレンジ精神あふれる言葉を聴くことができた。

 

 1970年代のオイルショックをきっかけとした市民運動がきっかけだった。原発2基の建設計画を打ち出され、「原発反対というより、エネルギーのことを知ろう」と環境NGOが立ち上がった。やがて国内中を巻き込んだ議論は、原発ではなく、再生可能エネルギーを選ぶ道を開いた。

 

 やがて、島には550基以上の風車が立つことになる。今やこの島の農業従事者の再エネの収入が農業生産の収入より多くなり、心も懐も豊かになる未来の選択をしたことを証明している。

 

 また、この挑戦が地元の農機具メーカーを世界一の風力発電機のメーカーに育て上げた。今もシーメンス社の一員として活躍中だ。

 

 1991年にはこの地に世界初の洋上風力発電所が11基建設され、その成功によって世界中に広がった。そうした農業と再エネの取り組みの一端を紹介していきたい。

 

 トップ写真:原発立地予定地だった所に立つ風車群、下:有機農法による果樹園と風車、下:コペンハーゲン市の5基風車を背景にした写真。一基3MWの設備容量を持つ大型風車。羽を含めて高さ149m。カーボン・ニュートラルを目指して、市はこの島2ケ所に合計8基の風車を建設。

 

 島内の風車は建て替えられる時期に来ている。高さ250mの風車も計画されているそうだ。15年かけて整備された地中化の電線網につなげられている。


風力発電所、現代のデンマークの風物詩

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その5

風力発電機はまるで現代のデンマークの風物詩

 デンマークを旅すると、風力発電が右も左もあちこちで見られたが、昔ながらの風車は一度しか見られなかった。ロラン島では「自宅から風車が見られるのが当たり前」とガイドさん。

 

 デンマーク5日にして、初めて晴天となった。午前8時の教会の音を聞きながら、ホテルの湖に面したバルコニーから眺める日の出は格別だった。循環型のバイオマス発電、ワラを利用した地域暖房システム、世界一を目指す有機農法など、ロラン島3日は挑戦者たちとの出会いだった。後日報告していきたい。

 

 写真上はファーベの風車発電機群の一部。畑の中で夕日に映えている。デンマークでは当たり前の光景になっている。 

 

トップはソンフィフさんの畑から見た夕日。この地はフィヨルドと海の境目にあって、死んだ動物や貝が堆積してできた豊かな栄養分のある土地だ。彼は単一作物のニンジンを8割作付して、安定する農業をしていたが、安定を捨て、日本のゴボウなど今150種の野菜を育てている。その結果、2年連続世界一のレストランに輝く「NOMA」に野菜を提供する農家になった。

ロラン島のガイドさん宅から見える風車
ロラン島のガイドさん宅から見える風車

動物福祉を念頭に、100%完全有機農業を実現、目指すは世界一

スザンネさんの農場の動物は元気がいい。子羊は自由に飛び跳ね
スザンネさんの農場の動物は元気がいい。子羊は自由に飛び跳ね

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その6

動物福祉を念頭に、100%完全有機農業を実現、目指すは世界一

 スザンネさんの農場の動物は元気がいい。子羊は自由に飛び跳ね=トップ写真、冬だけ牛舎にいれられた赤牛の乳業も幸せそう。デンマークの固有種の牛だ

 

 白黒まだらの豚は全世界で200匹しかいなかった絶滅危惧種だった=下写真。地元産の豚で、デンマーク産の気候に合う、1年中外にいて、雨でも雪でも平気。食べ物の30%は自分で探す。母豚も子豚の面倒をよくみて、今や88頭にもなる。本来の豚の3倍の高値で取引されている。 

 

 210日、このデンマーク最大の有機農場を訪れる。オーナの4代目の熱い語りにはしばしば動物福祉という言葉が 登場する。自身が「少女時代から食べ物のアレルギーで辛い思いをしてきた」という。「食べて健康に食物を作る。やるからには世界一の味と品質を目指す」

 

 始まりは活気のない大規模型集中農場への疑問だった。父から引き継いだ時、授業員は4人。古い農業を学ぶが、動物を大事に自然と共存したモダンな農業を再構築したいと思った。大学とも契約して有機農場を研究してきた。

 

 乳製品ではワールドチーズ賞などで何度も金賞をもらう。直売店・レストランも併設している。どうやら経営的にも成功しているようだ。

 夫もチーズ職人としてスザンナさんを支えているようだ。

 

 デンマークは有機農業の専門の大学もある。更にEUより厳しい基準もある。今や有機農業はデンマークに欠かせない共通のブランドになっている。

白黒まだらの豚は全世界で200匹しかいなかった絶滅危惧種。価格は通常の3倍
白黒まだらの豚は全世界で200匹しかいなかった絶滅危惧種。価格は通常の3倍
デンマークの赤牛
デンマークの赤牛

牛の糞尿はコジェネの原料、現代の循環型社会に貢献

ルイゼホイ農場、牛の糞尿はコジェネの原料
ルイゼホイ農場、牛の糞尿はコジェネの原料

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その7

牛の糞尿はコジェネの原料、現代の循環型社会に貢献

 トップ写真は現代の新しい循環型社会の象徴だ。牛の糞は古来より人によって再利用されてきた。日本では今やじゃまもの扱い。だが、ここロラン島では繰り返しりっぱな役割を果している。

 

 11日ルイゼホイ農場を訪ねる。750頭の乳業と750頭の肉牛、餌はほぼ自給している。年間2万キロの糞尿をここロラン島のコオジネのバイオガス発電所に供給している。1週に一度発電所からガス化した残り液が戻ってくる。その液体がトップ写真だ。これが、匂いがほとんどないばかりか、アンモニアなど植物に吸収されやすくなるから3度おいしい。この日はたまたま長雨で畑にまくことができないため満タンだという。

 

 バイオガス発電所は無料で糞尿を回収し、同時に自分のところに余りを農家に届けている。1㎥の糞尿から50㎥メタンガスを生みだす。そこから、年間45%の電気、50%の熱が生まれ、ロスは5%。そこまで行くには、発酵した魚や食料品を混ぜるなど工夫がなされてきた。 

 

 下写真の巨大なタンク付きの車で、この廃棄された液体を畑にまいている。しかも、この車はGPS付きのハイテク車。ほぼ自動的に効率的に均等に畑にまくことができる優れものだ。

 

 更に、この農場のワラがお金になり、地域の暖房になるシステムは次回に残したい。

 

 「35年前に牛75頭から始めた。ここまでやってきたのは、私のワイフが看護師として働いてくれたおかげだ」と農場主は語る。今、従業員12人、穀物以外にも、年間600万リットルの牛乳と750キロの牛肉を生産している。


ロラン島ではワラが体も懐も温めてくれる、地域暖房

フリテセリクスディルのチェリーワイン工場
フリテセリクスディルのチェリーワイン工場

【再エネと農業、福祉の国デンマーク訪問記 その8

ロラン島ではワラが体も懐も温めてくれる、地域暖房

 元貴族の館フリテセリクスディルのチェリーワイン工場を訪ねた。ここでは世界で唯一のワインの製法でのチェリーワインを製造している=上写真。製造所は断熱材を入れて牛舎を改造した施設だ。

 

 ここでは風車で電力を作り、ワラで熱を生み出している。日本では再生可能エネルギーは電気に重点が置かれているが、欧州は熱も重要視している。

 

 1500㌔の自家農場で栽培の麦ワラがここの施設の暖房を供給している。ワラ3㌔が1㍑のオイルに相当している。左下の写真のように一度置くと、自動的にワラを暖房装置に運び燃焼させる。地下水を90°に温め、巡回して戻り循環を繰り返す自動システムだ。年間500個のワラを使っている。農家では当たり前の装置となっているそうだ。

 

 ロラン島ではこうしたワラを利用した地域暖房システムが数か所ある。最大の施設は6000軒の家に熱と温水を供給している。

 

 どの位か? そこでこの訪問記その7で紹介したライゼホイ農場がでてくる。従業員12名の同農場では年間250万㌔のワラを生産している。その内200万㌔を1500㌔にして地域暖房施設に持ち込み販売している。価格は10.55デンマーククローネ(108)。その収入は農業収入の5%にあたる。

 

 ワラは以前畑に漉き込んで畑の飼料にしていたが、今や地域にも農家自信にも貢献する存在になっている。

 

 なお、畑には、糞尿のバイオマス発電所から戻った廃液の他に、収穫後マスタードの植物を植えて不足分を補っているようだ。

 

 

 ロラン島ではワラが体も懐も温めているようだ。

1個500㌔の自家農場で栽培の麦ワラがここの施設の暖房を供給
1個500㌔の自家農場で栽培の麦ワラがここの施設の暖房を供給