ソーラーシェアリングは発電のためでなく、農業振興が主であるように 特に中山間地域(中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域、山地の多い日本では、総土地面積の約7割を占める)の振興に、小水力発電所は要になるのではないでしょうか。
参考
日本の太陽光発電の問題点と小水力発電調査 非FIT型再エネ利用の事例紹介
http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/pbfile/m000320/pbf20210303114224.pdf
その1 福井県黒部市 宇奈月谷小水力発電所: エコ温泉リゾートを地域ブランドに高め
その2 川崎市マイクロ水力発電所 市と企業の共同運営事業:地域資源を生かし、CO2排出抑制
その3 群馬県中之条町美野原小水力発電所 魅力ある街づくり目指し、農業用水を活かす
宇奈月谷小水力発電所: エコ温泉リゾートを地域ブランドに高め
*設置者:一般社団法人でんき宇奈月 *最大出率2.2kW
富山県宇奈月温泉は富山地方鉄道本線の終着駅の街、電源開発とともに歩んできました。しかし、近年、山間地域の温泉郷は観光地・商店街の衰退、過疎化が進む危機的状況に陥ってきました。その中で、小水力発電とその電気を蓄電したEVバスを中心に、先進的なエコ温泉リゾートとして地域づくりのモデルとなっています。
2012年以来、約100団体1500人が視察に訪れました。また、「エコテクノロジーに関するアジア国際サミット」や「第2回全国小水力発電サミット」を誘致。さらに、まちづくりの先進モデルとして、県や地域ブロックの賞、「低炭素杯2015 地域エネルギー部門金賞(環境大臣賞)」「第8回EST交通環境大賞奨励賞(2017年)」を受賞するなど、全国に知られるようになっています。小さな町の、小さな2.2kWの発電所と小さな低速電気バス3台は、エネルギー地産地消のモデルとして大きな波及効果を生みました。
●電気自動車100%の観光地、ツェルマットに学べ
スイス・ツェルマットはアルプスで最も名高い観光地の一つ。環境保護を徹底させており、外部からのクルマでの乗り入れはできません。クルマで来た観光客は、一駅手前のテッシュ駅周辺の駐車場に乗り捨て、シャトル電車に乗り換えてツェルマット市内に入ることができます。街中を走るクルマは特別仕様の電気自動車のみが走行でき、1960年代から電気自動車100%の街づくりを実現しました。〇写真は市内の電気自動車タクシーです。
2009年に「でんき宇奈月プロジェクト」を開始、間もなくメンバー7名が同市を訪れました。その時、見学したバッテリー着脱式電気自動車バス(小水力発電電気利用)がEVバスのアイデアとなりました。
宇奈月谷小水力発電所: エコ温泉リゾートを地域ブランドに高め】
その2 エネルギーの地産地消で、非FIT型工事費800万円の発電所を実現
でんき宇奈月はエネルギーの地産地消を目指しているので、無理に売電しないことに決めたといいます。取水している黒部川水系(北アルプスを水源)は暴れ川で、流木や木っ端が多く、水量の上下も激しく、安定的に発電しない。よって、FITでの販売は難しいと判断しました。
調査した結果、地区の公民館裏にある防火用水路を利用することにしました。1946年に3時間のうちに全戸数349のほとんどが消失した大火事があり、開湯して20数年の努力がすべて灰となりました。その対策として防火用水のために宇奈月谷用水路が作られました。3系統に分かれ町の中を、勢いよく音を立てながら流れています。山の中腹に古い防火水槽=下写真=があり、そこから流れ落ちる用水路は今なお利用されています。さらに、総落差10.94m、有効落差9.24m、最大水量0.04㎥と小水力に向いていました。
問題は水利権。計画初期は一級河川黒部川水系なので国土交通省に水利権はありました。しかし、認可が下りなかった。何とか交渉して発電所の実証実験に漕ぎつけましたが、終了後に解体せざるを得なかったのです。東日本大震災後の規制緩和で、管轄が県に移行され、県知事が認可を出してやっと着工、2014年6月に運転を開始することができました。
もうひとつの問題は除塵。防水用水なので地元の人が管理することになっています。社団が管理を引き受けることも考えましたが、防火用水の全責任を負うことは、大変になることになるため、容易に手がなかなかつけられない状況です。
工事費総額は800万円。例えば、当NPOの調査では、2015年発電開始の同じ2.2kWの小水力発電所(農業用水利用、有効落差1.119m、最大使用水量0.3㎥)では、3672万円(系統接続費用に別途22万円)。系統接続関連施設は不要としても、比較すると断然やすくなっています。水車は価格250万円のアジアン・フォニック・リソース(カナダ)社製メイドインベトナムのターゴインパレス水車を採用しました。これは富山国際大学の上坂博亨教授(社団の副会長、全国小水力推進協議会代表理事)の勧めです。社団の事務局を担っている地元の大高建設㈱が建設したためコスト削減ができました。大高建設の3代目社長の大橋聡司さんは社団の代表理事(会長)でもあります。同社はこれまでダム建設などの工事にかかわり、こうした土木工事はお手のもの。水車についてもベアリングはこれまで2度交換しましたが、すべて自前で行っています。工事費400万円は「富山県建設新規分野進出等支援事業」の助成金を活用し、残り半分は会社からの借入金としました。発電はバスに充電の他、公共施設の街灯にも利用しています。こうした地域の組織、地元大学などの取り組みによって、宇奈月谷小水力発電所(愛称:でんきウォー太郎1号)が完成したのです。
なお、写真は完成当時のもの。豪雪対策のため実際はシャッター付水車小屋の中で水車は回って発電しています。
【宇奈月谷小水力発電所: エコ温泉リゾートを地域ブランドに高め】
その3 ゆっくり楽しもう!
低速電気バス(eCOM―8)エミュー
このエコリゾートのもう一つの目玉は、定員10人のEVバスです。日本の企業と大学が連携して開発したバスです。標準小売約1500万円から1900万円(種類による)。社団では3台を保有。1台は大学から借用、2台は補助金で購入。1充電あたり約40kmの走行が可能で、家庭用100Vの電源でも充電できます。屋根には560Wのソーラーパネル(最大動作電圧102V)がつけられ、晴れた日にはバッテリーの約半分の電力を太陽光パネルが補います。
温泉街周回と宇奈月ダム&とちの湯の2コースで、手を挙げれば、誰でもどこでも乗車ができます。運転も普通免許でできます(機種によって要中型)。地元のシルバー人材3名のドライバーは町を案内しながら時速19kmで巡回しています。「ゆっくり楽しもう! 水平エスカレーター感覚で」と騒音も排気ガスもなく、エコ温泉地の魅力を高めています。
●地域住民の環境意識高め
社団では地元の人にも理解してもらうおうと、広報誌「てんき宇奈月かわら版」を発行、市の広報誌とともに地区全戸に配布しています。20年8月には100号になりました。また、子どもや大人向けの学習会を実施、各旅館のスタッフのみを集めてワークショップを開催する等、地域住民の環境意識の向上に努めています。
このように「低炭素型観光地」といった環境に優しい先進的なエコリゾートとして、地域ブランド力は確実に向上しているようです。
写真: 2020.8.30-31 高橋撮影
取材日2020.8.30-31
初出 「市民発電所台帳2020」(NPO法人市民電力連絡会発行)
川崎市マイクロ水力発電所
市と企業の共同運営事業:地域資源を生かし、CO2排出抑制
川崎市の水道水利用小水力事業の大きな特徴は、民間企業と共同で運営されていることです。市のホームページによれば、「マイクロ水力発電として日本で初めての取組」。川崎市上下水道局は場所と水力エネルギーの提供を行い、共同事業者(東京発電株式会社)は、資金の調達、設計、建設と運転管理を行います。その電力は全量電力会社にFIT価格で販売、利益は市と企業とで分けています(工事費用などは未公開)。
この仕組みでは数千万円から数億円の小水力発電所建設費を捻出する必要はありません。市や市民団体が共同で地元の資源(水道水や遊休落差)を活用して小水力を作る仕組みことができます。
《江ヶ崎発電所:初の企業と共同事業、住宅街で防音設備完備》
―出力 90kW 、年間発生電力量約54万kWh―
「川崎市の水道は、北部の丘陵地帯から臨海部まで細長く高低差のある地形特徴を活かし、その大部分を自然流下により配水しています。高低差から生じる自然な水の流れによるエネルギーをマイクロ水力発電に有効利用し、二酸化炭素の発生を抑制することで、地球温暖化防止に貢献しています」(市のホームページより)
初めに運転を開始した発電所は、横浜市鶴見区にある江ヶ崎発電所(最大使用水量0.784㎥/S、有効落差14.2m)。横浜市にあるのは、市北部の長沢浄水場(標高78m)から流れるにつれて南部の土地が平になります。よって、この地域には丘陵地がないために隣接する横浜市の丘陵地に末吉配水池(標高45.5m)を建設して自然流下により川崎市内へ配水しているからです。周りにはマンションなど住宅地があるので、地下の発電所には防音設備が設置され、発電に伴う大きな音は外からはまったく聞こえません。
2004年4月に日本自然エネルギー㈱(後に東京発電㈱に事業譲渡)との共同事業として運転開始しました。オーダーメイドの横軸プロペラ水車を2基設置し、最大発電量170kWでしたが、2019年に1基が故障したため、1基を撤去して、現在1基90kWのみ稼働しています。
水道水のため設備負荷は低く巡視点検は4ヶ月に1回程度。止めての点検は3年に1回。オーバーホール点検は10年に1回。これは次に紹介する2ヶ所のマイクロ水力発電所も同様です。例えば、「市民発電所台帳2019」の実例紹介した中之条町の「美野原小水力発電所」では自動除塵機を取り付けても、平日毎日人間の手で落ち葉などのゴミを取り除いています。水道水はその点かなり楽で、コスト削減ができます。
その2-2
川崎市マイクロ水力発電所 鷺沼発電所
《:環境教育のため見える化も》
―出力90kW、年間発生電力量約53万kWh―
2006年9月、第2号基として、川崎市宮前区の鷺沼配水池に「カッパーク鷺沼」のふれあい広場整備と同時期に設置されました。鷺沼配水池は飲み水を一時的に蓄え、水量を調整しながら市内に配水しています。池内には、小学校のプール約450杯分の水道水が蓄えられています。
そこに上下水道局と東京発電株式会社が共同で、浄水場から配水池に至る送水管に発電機を設置して、地形の高低差から生じる水の流れを利用して発電しています。有効落差13.1m、最大使用水量0.96㎥/S、年間発電量53万kWh。
隣接には保育園や小学校もあり、施設見学が安全にできるように蓋を開けると、アクリル板越しに水車発電機が見えます。
その2-3
《平間発電所:リニューアル時に工業用水利用し発電》
―最大出力121k W、年間発電量86万kWh―
2016年5月、発電所は川崎市中原区平間にある工業用水の平間配水所(京浜工業地帯に供給)のリニューアル工事に合わせて稼働しました。最大出力121kW。年間発電力量は95万5,679kWh(2017年度実績)。最大使用水量0.509㎥/秒、有効落差31.3m。川崎市上下水道局では最大の発電所です。
発電所の建設費は全額東京発電株式会社が出資。建物と配管施設は川崎市が出しています。水車発電機は「日本製でなるべく安いもの」を選び、オーダーメイドの横軸単流渦巻フランシス水車(田中水力株式会社製)を設置しました。
ここは前述の2基と比べて、平地に設置されているので、見学しやすいです。
その2-4 入江崎水処理センター発電所:わずかな落差でも下水を活用して発電
川崎市には他にも川崎区塩浜に入江崎水処理センター発電所(出力13.2kw、最大使用水量1.365㎥、有効落差1.37m、年間発電量約10万kWh)があります。11年に運転を開始。電力は全量場内で利用しています。水車の機器費だけで98,934,484円。「環境改善」、「エネルギー活用」、「資源環境」の3つの環境対策から、処理水が流れるわずかな落差を活用して発電させている事例です。(ここは企業との共同運営ではありません)
「市民発電所台帳2020」では紙面の都合でこの部分は省略されましたので、入れました。
入江崎水処理センターの撮影は2016.6.2
●太陽光発電だけでは再エネは弱い
「本来あるべき姿を見失うと、世の中の再生可能エネルギーは、比較的どこにでも設置しやすい太陽光ばかりになってしまいます。太陽光電力ばかりの再生可能エネルギーは、脆弱です」と根本泰行教授は市民電力台帳2019」書いています。「夜間の電力はどうするのですか、とのへ理屈をつけられます。行きつく先は・・・やっぱり夜間も安定して発電できる、原子力ですか・・・?」。
このように、日本の市民発電所は「どこにでも設置しやすい太陽光ばかり」でなく、農業団体や自治体と連携して、どこにでもある農業用水や水道水・下水を利用して小水力発電所を建設できるのではないでしょうか。それが地域一体型の市民発電の役割につながることでしょう。
その3
その3
群馬県中之条町美野原小水力発電所
魅力ある街づくり目指し、農業用水を活かす
*設置者:中之条町 *最大出力 135kW (年間発電量41.9万kWh)
人口1万6千人の中之条町は2013年6月「再生可能エネルギーのまち中之条」宣言し、「再生可能エネルギー推進条例」を制定するなど、地球温暖化(30年度温室効果ガス削減目標13年度比マイナス40%)や東日本大震災以降のエネルギー問題に取り組んでいます。同年に約4MW(2MW*2)の町営太陽光発電所を2箇所稼動し、同9月には、自治体が主導した電力会社としては全国初となる「一般財団法人中之条電力」を設立し、町内公共施設を中心に再生可能エネルギーを主電源とした電力供給を開始しました。そして17年には約2MWの「沢渡温泉第3太陽発電所」と最大出力135kWの「美野原小水力発電所」(町営)を稼働させました。
「美野原小水力発電所」は、農業用水として四万川から引いている「美野原用水」を活用した従属発電施設です。発電施設の概要は、クロスフロー水車及び誘導発電機を採用、北側斜面の約6mの有効落差を利用し、水圧管366mを新設し発電後は美野原用水幹線へ放流しています。灌漑期の使用水量0.3m3/sで最大135kWを発電します。非灌漑期、4月から5月15日と9月から3月までは使用水量0.1m3/sで常時31KWを発電します。
厄介なのは取水口にたまる落ち葉などの除塵ゴミ。自動除塵機が取水口に取り付けられていますが、最終的には人間の手で取り除かなければなりません。町の嘱託が平日毎日点検しています。メガソーラー3基と小水力発電所を併せ、点検要員として2人の嘱託職員の雇用につながりました。
年間発電量は41.9万kWh(18年実績)。総工事費2億2376万円、系統接続費用は62.1万円。ただし、東京電力管内における系統連系接続制限区域となり当初完成予定から2年の歳月がかかってしまいました。。事業の資金は、農林水産省の農村漁村振興交付金及び県などの補助金が8割、残りを町が出資しました。水力発電設備の施工は㈱ヤマト(前橋市)と㈱千島工務店(中之条町)が施工を担当しました。(一財)中之条電力から誕生した㈱中之条パワーは、メガソーラー4カ所(合計約7MW:民間1件含む)と小水力から電力を全量調達する契約を結んでいます。小水力発電の売電収益の一部は町の経営する農業施設の電気代に使われ、維持管理費の削減と農業振興に貢献しています。
同町では、「ふるさと納税」の返礼品として、「お礼の電力」を供給する仕組みを始めました。関東地区に限定されますが、今までの実績は約50軒。この仕組みでは、例えば25万円の寄付者に対し、2500kWh(一般家庭で半年から1年分)を供給しています。
中之条町は森林率86.9%、かつては農林業が主力産業でしたが、里山の荒廃と鳥獣被害が進んでいます。「今ある自然環境を有効に活用して原発に代わるエネルギーを作り出し、魅力ある地域づくり=再生可能エネルギーのまちにしていきたい」と中之条パワー・山本政雄代表取締役は語っています。
その4 徳島県佐那河内村
佐那河内村新府能発電所:棚田の村の資源活かし、大正時代の水力発電所を復活
■ 発電所の復活は2012年の固定価格制度の始まりで
人口約2500人の徳島県佐那河内(さなこうち)村には美しい棚田風景が広がっています。村のお米は「ふる里納税」の返礼品としても使われています。この村が2015年10月に先祖代々守り続けたこの地域資源を生かし、佐那河内村「新府能発電所」を完成させました。
大正時代にも村には佐那河内水力電気株式会社が建設した、最大出力300kw、常時出力120kWの水力発電がありました。しかし、1973年に廃止され、設備は四国電力から村へ譲渡されました。発電所の復活は2010年頃から模索されていましたが、採算性に問題がありました。12年の固定価格制度の始まりで、同年佐那河内村職員が水量の単独調査を行い、一般社団法人徳島地域エネルギーと全国小水力利用推進協議会の支援を得て検討を始めました。
そのヘッドタンク(上部水槽)をそのまま利用し、棚田の水を確保するスペースをそのまま活用するものです。工期は14年12月18日から翌年9月30日まで。写真は農業用水の導水用コルケート管です。発電用の管は高密度ポリエチレン管を採用し、この斜面の地中に埋めています。さらに、大水が発生した時には両方のパイプを使えるようになっています。水車の水は発電後、そのまま棚田に流れます。
発電所の設計および建設工事は徳島県内の業者が行い、施工は村内の業者が行いました。事業費は7600万円。国の50%の補助金を得て、村は50%出資しています。四国電力との協議した上で、インバーターなどの逆変換装置を使用しない、低圧連携方式でコストダウンを図りました。水車はイタリアIREM社のペルトン水車。当時、日本製は当時この3倍も高かったそうです。この発電機には立軸6射ペルトンと三相誘導発電機で装備しています。構造が簡素で水量の増減に対応しやすいで、欧州では多数の実績があります。
水量は毎秒40リットルとわずかながら、有効落差が127mとあるので、出力は最大45kW、平均28kW、年間発電量は約28万kWh(実績)。約60世帯の1年間分の発電量と同じだけ発電をしています。FIT単価34/kwh(税別)で四国電力に販売しています。
発電所も水利権も村にあり、地域の資源利用で、事業費も7600万円とかなり抑えることができました。水路の維持管理は月5万円で地元用水組合に依頼、ここでも管理費節減と地元還元につなげています。また、売電益は農業集落排水処理施設の電気代に充てられているなど、農業する人も減少する中、農業振興にも寄与しています。
初出:「新発電所台帳2019」NPO法人市民電力連絡会
写真・取材:高橋 2016.8.9 2019年に追加取材して原稿をチェックしてもらいました。