その1 はじめに 反対・賛成派に分けられない、生の声と現場を伝え
その2 富岡町復興拠点、12年ぶりに避難指示解除その実態
その3 双葉町請戸漁港の漁民に聞く、福島原発の処理水と漁業事情
その4 双葉町駅周辺、避難指示区域1割解除の半年後
その5 フクシマ2023シリーズ再開、複数の視点で
【投稿】「フクシマのいま」を感じて セロリ(ペンネーム)
その6 楢葉の伝言館(楢葉町) 早川和尚の遺志つなぐ
その7 再び請戸漁港、大韓民国テレビ局の取材協力依頼に、多様性の必要を感じ
その8 アルプス処理水、科学という美名で原発神話の復活か?
その9-1 東日本大震災・原子力災害伝承館は何を伝えたいか、広島平和資料館との比較
その10 中間貯蔵施設のジレンマと矛盾
その11 被災の語り部、無人の中野地区に未来の想いを寄せ
このフクシマシリーズを書き続けて3年、そろそろ終了しようと思っていたが、その生の声と現場を伝える必要性を感じてきた。脱原発の皆さんとの二つの出来事から一層その思いは募った。
「福島第一原発の汚染水放出について、反対派と賛成派の意見を現地で聞く企画にしよう。反対派の人を調べてみよう、賛成派として原子力廃炉資料館の説明を」
「いや、反対派や賛成派と簡単に片付けられる問題ではない」と反対したが理解は得られない。(このシリーズでは、請戸漁港の二人の漁民に必ずしも反対だけでないという生の声を聴いている)
ある脱原発の集会イベントのチラシを担当したが、実行委員会の皆さんの意見を入れて、納得して「私たちの主張」の4本柱に「福島の若者が甲状腺がんに苦しんでいる」という文言を書いた。しかし、集会の講師(3.11こども甲状腺がん裁判に取組む弁護士)が「『原発ゼロ』の理由の一つという穿った見方がされないように」この文言の削除依頼をしてきた。甲状腺がん裁判が反原発運動に利用されたくないという思いからだ。私は地元の方々の声を直接聞く機会が多かったので、それにとても共感し、削除案に全面賛成した。しかし、事務局会議でも、実行委員会でも削除案の賛同はほとんどでなかった。(最終的には削除することになった)
上記の2例は、私の意見とは違っているから、間違っていると主張するつもりはさらさらない。ただ、ネットやマスコミ情報だけではなく、現場を見て判断してもらいたいと思う。だだ、自分の感覚や知見もどこまで本当にリアルなものかどうか、疑う必要はある。
そこで、今年は私と一緒に現地を訪ねる人を募集することにした。レンタカー代とガソリン代割り勘位で。2023年3月29日、10年間毎年通いなれた原発被害地を、初めて私が運転して案内をすることになった。(といっても、3月28日、陸前高田しみんエネルギーの視察の帰りに同行してもらっただけである)。「地元をよく知る人でないと分からないような貴重な諸所を回っていただいて、様々詳しいお話も伺えて、大変有難うございました」と感想をメッセンジャーでもらった。批判の意見もしっかり伺った。
2021年、「高橋様、最近のFBの投稿は反原発の主張が主になっていると思われます。反原発一色の活動には協力できかねます。よってフクシマを忘れない会は退会します」というface bookメッセージを受けたことがある。「フクシマ2022」はその声を少し反映したつもりだ。
【読者の声】
・震災後私たちは東北の温泉地を中心に、ヒアリングを続けてきました。
いろんな立場や意見があるのはよくわかります。
震災後、首都圏と東北の格差はどんどん開いて、資源高で窮地に最も立っているのは、震災に耐えた東北電力。。
地熱だけが、東北自然エネルギーとして独立採算、反対運動の多い、ソーラーや風力は東北電力が一括します。
核燃サイクルや女川や東通は、地域経済の依存度がとても大きい。
・トリチウム水に関しては、
海洋放出ではなく、未来につながる濃縮技術を!とずっと訴えつづけてきたのですが。。
頼みの技術を持つロシアがあんなことになって。。
フクシマ2023 その2
【富岡町復興拠点、12年ぶりに避難指示解除その実態】
2023年4月1日桜満開の中、福島第一原発事故による帰還困難地区のうち、特定再生拠点区域約3.9㎡の夜ノ森地区・大菅地区は、避難指示が12年ぶりに解除された。
私が2021年4月3日(土)に来たとき、夜ノ森の桜並木のメインストリートの前は、ガードマンがゲートで閉じ、許可された特定の人や車しか入れなかった。道路に落ちた桜の花びらを素手で拾上げ、空に舞いあげた女の子。「やめなさい」と母親が声を上げていた。並木通りに設置された「この先帰還困難区域につき通行止め」の看板をじっとみる若い人たちがいた。
2023年3月29日、今や新しい夜ノ森公園で声を上げて、親御さんが見守る中、遊戯に遊ぶ声が聞こえてきた。確かにとても「いいね」だ。
しかし。町道夜ノ森桜線から数100m奥の地域の現状は、今も原発事故の傷跡が見られる。そのシーンの一こまがトップ写真だ、富岡町大菅のあるお宅で、表札もそのままに3人家族の名前が明記されている。2011年3月、ここに自家用車を置いたまま避難したのだろう。庭先ばかりか車にも一面に雑草が覆っている。(無断に写真撮影してすみません)
4月2日付神奈川新聞(署名がないので共同通信ニュース)の報道では、町長は「大きな一歩」、約6年前から富岡町に単身赴任している会社員は「住み始めた当社と比べ、少しずつにぎわいを取り戻していると思う。解除が復興の弾みとなればいい」と紹介していた。
数時間しかいない旅行者の目には、そう見えなかった。
ある農家さんの家には、除染した土壌を入れたフレコンパックが家の前にあった。2023/3/24 0.65μSV/hと記載されている。
【読者の声】
・シェアさせていただきます。
・ご苦労様❗️
いつかご一緒しましょう。
フクシマ2023 その3
フクシマ2023 その3
【双葉町請戸漁港の漁民に聞く、福島原発の処理水と漁業事情】
福島第一原発の処理水について、現地では、反対派、賛成派と簡単に片付けられる問題ではないようだ。2023年3月29日、福島第一原発の見える請戸漁港の市場と作業場に訪れて二人の漁民に本音を伺った。
■ 漁民70年の85才の男性 請戸漁港の市場にて「どちらかと言うと反対」
わしは15から漁民を70年間もやっている。もっとも被災後は何もやってなかったんだ。
ここ(浪江町請戸地区)には住めなくなってさ、国が土地を買ってくれたが、相場の1/3しかならなかったんだ。
ここの魚は(東京の)豊洲でトップの人気だ。こんなに大きなヒラメは他とは違うのさ。いわきや相馬は底引き網でとるが、ここでは1本釣り。
もちろん魚は放射線量の毎日サンプル調査をしている。
ALPS処理水だって? 「どちらかと言うと反対。風評被害が心配だ。だけども、仕方がないこと」
■ その2 漁民75才男性、作業小屋にて
16才から漁民をやっている。ALPSE処理水だって? あれは汚染水だべ。
実はさ、50年前、東京電力がここの原発からコバルトを流してしまったことがあるんだ。
(コバルト60という放射性核種のことと思われる。が、長年反原発運動をしていた人に聞いてみたが、このことを知らないという。ここではこれ以上の話は裏付けがとれなかったので、記載しないことにした。検証できる情報を募集します。)
われわれ漁民には震災でも、ほとんど保障はなかった。あってもわずかだったんだ。
ここの作業場は無償で行政が提供してくれたが、2ヶ所借りているので、敷金は20万円×2倍さ。電気代や水道代は自分持ち。でも、ここの網や装置などで1億円以上使ったんだ。それまでずっと貯めていたお金を使ったんだ。補助金は2/3がでたが、1/3は自己負担だ。だから、工面できない人は続けられない。「(多くの)船はしゃっきん、しゃっきんといって動いている」と言われているんだ。
被災後、民主党政権下で、地元国会議員から言われて農林水産省大臣に秘密時に会って、現状を訴えたこともあるさ。
でもさあ、今回の(汚染水放出については)「なんともしょうがない。国が安全というからねえ。仕方がない、ダメともなかなか言えない。福島県漁連も「面倒だから(汚染水放流)反対と言っているだけではないのかなあ。役目だから。賛成というと大変なことになるからさ」
福島県の魚のサンプル調査基準は、50ペクレム/キロ以下と国の倍の厳しい基準にした。国の基準では100ベクレム/キロ以下。
【思い出】
「15から漁民を70年間もやっている。もっとも被災後は何にもしていなかったんだ」
請戸地方卸売市場が再開されたのは、2020年4月8日。震災以来およそ 9年ぶりだった。
だいぶ以前、溝ノ口駅前でフクシマ写真展を行っていたら、中高年のおじさんから「福島のボランティアが皆引き揚げたのは、なぜか知っているか」と問いかけられた。「補償金でパチンコなど遊んでいるからだ」という。馬鹿な質問として「こんな話をされたが、本当でしょうか」と旅館の女将に聞いたことがある。とても悲しそうに否定していた。
「被災後は何にもしていなかった」のなぜか? 言うまでもなく、豊かな海を汚した原発災害のためだ。東日本大震災のためではない。
参考
●124年の歴史を持つ浪江町の老舗企業。9年ぶりに事業を再開した柴栄水産の挑戦
https://fukushima-hook.jp/interview_shibaei/
【読者の声】
聞き取りありがとうございます。地道な活動ですね。立ち場が違えば、考えも異なります。どれも真実なのでしょうね。
→(高橋)ネットやメディアからの情報は本当だろうか? 実際に自分自身の体験に基づく情報の発信を心がけています。
何が真実なのか? 哲学カフエでハンナ・アーレントの次のような思想に共感しています。
・統一の見解を持たないこと、複数性の時代だ。
・各自が一人ひとり、自分の経験からこう見える、こう考える。そのことが真理のじゃまなら、「真理は神様に預ける」
現代、科学が絶対的なものとされ、その考えに囚われている。人間は無限に多様だ。人間は違っていることに、意味がある。
でも、自分にとって都合のいいように、人間は感覚や経験や記憶を捏造する動物です。今後はなるべく、複数の人と一緒に視察して、他の人の意見もいれて、レポートしたいと思っています。
・未利用魚も多少流通してるみたいです。
【読者の声】
・聞き取りありがとうございます。地道な活動ですね。立ち場が違えば、考えも異なります。どれも真実なのでしょうね。
・高橋 返答
フクシマ2023 その4
フクシマ2023 その4
【双葉町駅周辺、避難指示区域1割解除の半年後】
大熊町とともに東京電力福島第一原子力発電所が立地する福島県双葉町。原発事故後、すべての住民の避難が11年半続いていた。昨年2022年8月30日、双葉の帰還困難区域の一部の避難指示が解除された。
しかし、今回避難指示が解除されたのは町面積の約1割に過ぎない。トップの写真の赤い色がいまだに帰宅困難区域だ(図は双葉町のホームページをもとに高橋が写真をいれて作成)特定復興再生拠点区域(復興拠点)は国費で除染とインフラ整備を進められているが、放射線量の高い85%は帰還困難区域として残っている。
新しく完成した双葉駅東口前の役場=下写真=を訪れると十数人の人が働いていた。2022年3月29日町役場のお一人に尋ねた。
そうですか、川崎からいらっしゃったのですね。
町のホームページもご覧になったのですか、ありがとうございます。いまだに帰宅困難地区がどうなるのか、まったくわかっていないのですよ。
どこに住んでいらっしゃるかって? ここから先の原子力災害伝承館周辺に家が建ってきましたね。
役場の反対側駅西側の災害公営住宅=下写真=が先行して25戸への入居を開始した。生協のトラックも配達にきている。ここに再生賃貸住居が86戸できる予定だ。今年2023年2月には双葉診療所も開所した。だが、双葉厚生病院は閉鎖のままだ。
〇令和4年の主な動き
「3月25日、双葉町と双葉町議会は東京電力ホールディング㈱に対し、福島第一原子力発電所の事故により避難した住民に対する損害賠償請求訴訟での最高裁決定を受け、全町民に判決と同等の金額の上乗せした賠償をするように求め要求書を手渡す」。
「広報ふたば」令和5年3月号より
原発事故被害は12年たった今もまだ終わっていない。
参考に
●福島県双葉町 午前0時に一部の避難指示解除 約11年半ぶり(NHK報道)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220830/k10013793881000.html
●<社説>双葉町避難解除 国策の犠牲を忘れるな
2022年9月15日付東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/202288
フクシマ2023 その5
フクシマ2023 その5
【フクシマ2023シリーズ再開、複数の視点で】
「フクシマ2023」シリーズを再開します。これまで10年間、フクシマに通い続けていました。「直観を信じる勇気、疑う勇気」を持ちたいと考えています。
2023年5月18日と19日、今度は視点を変えながら、face bookにて呼びかけたお二人とともに「今のリアルなフクシマ」を取材したいと思っています。
「中間貯蔵施設の見学案内書を読み、改めて身が引き締まる思いがしました。
帰還困難区域に一時的とはいえ立ち入るのですね!」と参加予定の方からメッセージをいただいています。
また、双葉町中野区に被災当時住んでいた「語り部」の話を伺う企画もしました。
写真は2023年5月21日11時から15時JR溝の町ペディストリアンデッキにて開催する、「第28回公害・環境、健康、まちづくりフェスタ」の展示パネルから川崎各地で展示していきます。
2023年5月18日、福島・浪江町に向かう「ひたち3号」の中から
【投稿】
追記:視察の参加者の一人から次のような感想をいただきました。
タイトル 「フクシマのいま」を感じて
「フクシマを忘れない会」の高橋さんの案内で現地視察に同行し最も印象に残ったのは、「中間貯蔵施設」の見学でした。高台から福島第一原発1~4号機を目の当たりにし、何とも言えぬドキドキ感に襲われた。気になる線量は1.4マイクロシーベルト。手前には土壌貯蔵施設がずらりと連なっている。道中、放置されたままの民家が数軒あった。この場所は時が動いているのか、止まっているのか、頭が非常に混乱した。
双葉町に在住していた高倉伊助さん(注:現在福島県須賀川市在住)の話しは、その鋭い眼差しと共に迫力を感じた。「原発に反対か賛成かという話しではない。10年後を見据えた計画が必要だ。」との言葉がずしりと響いた。神社内に町の人たちが集える居場所を再建している姿に、その熱い想いが感じとれた。
今回の現地視察の糧は何といっても自分の目に「フクシマのいま」を焼きつけたことにあろう。そして声を大にして伝えたいことは、「ぜひ現地に足を運び、感じて欲しい!」、この一言につきると思った。
2023.5.21 セロリ(ペンネーム)
フクシマ2023 その6
フクシマ2023 その6
【楢葉の伝言館(楢葉町) 早川和尚の遺志つなぐ】
電力会社と国家の傲慢(ごうまん)に、
立ち向かって40年、力及ばず。
原発は本性を剥き出し、
故郷の過去・現在・未来を奪った。
と、ここ福島県楢葉町(ならはまち)にある伝言館の前に、「原発悔恨・伝言の碑」が建立され、東京・上野の東照宮から「広島・長崎の火」が移設された火が灯されてる。
2022年3月11日の除幕式の中で、ここ宝鏡寺第30世代住職・早川篤雄館長(同年12月29日、83歳で逝去)が130人の列席者の前で次のように語っている。
「ひとたび、原発事故が起きればその被害額は国家年間予算額の規模になると、国は前もって試算していました。しかし、国民にはそのことは極秘にされ、安全神話と札束で騙し続けていました」。
同館は木造2層建て。長年、原発反対運動に取り組んできた早川住職が私費を投じて建設した。1階には「エネルギー・アレルギー」と原発推進を謳(うた)う旧科学技術庁のポスターや除染の写真、汚染水や震災関連死についての説明パネルなど約100点を展示している。地元にしか配布されなかったような資料もあるそうだ。
5月18日、著者にとって2度目の訪問。山間に伝言館の看板さえない小さな寺を3人で訪れたら、すでに大型バス2台で訪れた先客があった。ある医療組合の看護師長研修会の方々であった。建設費53億円の「原子力災害伝承館」には行かないそうだ。
伝言館副館長(現館長)の安斎育郎さんは「ウィーン・ユネスコ・クラブ」(ユネスコの公式NGO)の「地球市民賞」を受賞している。その受賞の日時と場所は「2021年3月11日福島県宝鏡寺境内」(原文は英語)だ。
「一般社団法人 3.11伝承ロード推進機構」が定めている「震災伝承館」57施設には、この伝言館は紹介されていない。同機構によれば、「東日本大震災から得られた実情と教訓を伝承する施設」とある。定義の①災害の教訓が理解できるもの、などに当てはまらないようだ。
参考資料
・「第9回フクシマ現地調査報告書」DVD(製作・著作 フクシマ現地調査実行委員会)
宝鏡寺「非核の火」式典のもよう
・3.11伝承ロード推進機構 (311densho.or.jp)
・<13年目の被災地を再び巡る 福帰行>楢葉の伝言館(楢葉町) 原発悔恨 和尚の遺志つなぐ:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
取材・撮影
2023.3.29&5.18 高橋喜宣
【なかはらっぱ祭りで、お寺さんの檀家さんと出会う」
去る7月15日前夜祭、16日(日)本祭と第19回中原市民活動の集い「なかはらっぱ祭り」に参加しました。川崎市中原市民館会議室4にて「フクシマを忘れない会」「おひさまフェス×星空上映会inかわさき」「川崎地域エネルギー市民協議会」の合同のパネル展を行いました。中でも「今のフクシマが分かる6分講座」には多くの方々がパワーポイントでの報告会に参加してくれました。
「実は私は(福島県)楢葉町(ならはまち)からの避難者なんですよ。」
「伝言館ですって? 私はそこの檀家だったのですよ。墓はこちらに移しましたが。伝言館の早川和尚(故人)は全国からバスで訪れてくる方々の対応で、大変だとおしゃっていましたわ」と年配の女性。逆に私が教わることも。
「フレコンパックの除染土を埋めても、放射線の悪影響はないのでしょうか」
「(お客様の一人)あそこのパネルにあるように『原発のうんち』とは違うのですよ」と観客同士でも対話がありました。
フクシマ2023 その7
フクシマ2023 その7
【再び請戸漁港、大韓民国テレビ局の取材協力依頼に、多様性の必要を感じ】
「福島の漁業者の方々の経験や思いを正確に伝えることは、私たちにとって非常に重要です。原発事故以降、皆様が経験された困難や再建の取り組みについてお伺いし、広く伝えることで、より多くの人々に理解を深めていただきたいと考えています」
と昨日6月15日、私のface bookメッセンジャーに原発処理水問題を取材中の大韓民国の某テレビ局の東京都在住の方からいただいた。某テレビ局からは、なかなかアポが取れなく、漁民を紹介して欲しい旨の連絡だった。
この「経験や思いを正確に伝えること」はかなり難しい。市民記者としてこれまで漁民の声を何度か発表してきたが、それはあくまでサンプルでしかない。でも、「直観信じる勇気、疑う勇気」を大事に、皆さんにお伝えしている。反対派の人の話を聴くと、「信念バイアス」になるかもしれない。賛成派の廃炉資料館の話を聴くと、「権威のアピール」を信じることになりかねない。
漁民から聴いた話でもそのまま発表できないこともある。でも、その裏付けに市の関係者に伺い裏をとったこともある。実際に取材して、意外だったこと、考えなかったことを伝えたい。
5月19日、三人で朝9時の市場スタート前から請戸漁港市場を訪れた。市の関係者に話を聴いていたら、市場の人が「裏の2階に上がってご覧なさい、全体が良く見えるわ」と案内していただいた。
何度かこの市場を見ているが、全体を見渡すのは初めてだった。一度生けすにいれた魚を市場で売買している。魚が入れ物から飛びだしているのを何度も目撃した。今までの印象と違っていた。原発処理水が放出されると、この市場にどう影響するのだろうか?
取材・撮影 2022年5月19日他 高橋喜宣
フクシマ2023 その8
フクシマ2023 その8
【アルプス処理水、科学という美名で原発神話の復活か? 】
「処理水放出の安全は科学的に確かめられている。だが中国政府は「核汚染水」というレッテルを貼り、世界に対して日本の非を鳴らしている。安全な日本産水産物の輸入は禁止した。いずれも不当で風評被害を拡大している。容認できない。」
2023年9月10日 産経新聞「主張」
「福島の『核汚染』から中国の消費者を守るため」と言っています。科学的根拠が一切なしひどい言いがかりです。」
2023年9月20日福島民報 意見広告=トップ写真
「一部の心ない、科学的に根拠のない批判など・・・」 小泉進次郎元環境賞大臣
2023年9月3日の発言 「神奈川新聞 小泉サーフィン劇場」より
皆さん一同、「科学的」という言葉で、アルプス処理汚染水海洋放出反対派を一喝して批判している。
私はこれまで、知見不足でこの福島第一原発事故由来の「アルプス処理水」について書いてこなかった。しかし、この「科学的」という言葉には、果たしてどれだけ根拠があるのだろうか?
(例として挙げた中国に加担するわけではない)
左下の復興庁が全国に配布したチラシ=左下。アルプス処理水を飲めるという印象を与えている。そのチラシの安全性を示す根拠から飲めるという根拠は皆無だ。「福島にサーフィンをしにきてください」と福島県南相馬市のサーフィン教室に参加した小泉さんがアルプス処理水を飲んでみせたら、信用するかもしれない。
右下写真は福島県富岡町にある「東京電力廃炉資料館」のアルプス処理水の展示ビデオの一コマだ。処理前の水はこんなに汚かったが、処理後こんなに透明になったいう写真をみせて、・・・・だから、「(処理水の海洋放出に)ご理解してください」と主張する。「放射線は、目に見ることができず、触れることもできず、においもなく、人間が五感で感じることはできません」(環境省「放射性物質、放射能、放射線ってどう違うの?」のより)と無色・無臭という小学生レベルの科学的知識もないのだろうか??
私はこうした動きを「新しい原発神話」として今年からパネル展を行ってきた。昨年、テレビ番組の黒柳徹子さんとタモリさんの「来年はどんな年になりますかね」「新しい戦前になるんじゃないですかね」との会話から由来している。(これが多いに話題となり、今年の憲法集会でのテーマになった。)
9月21日に「3.11子ども甲状腺がん裁判」の弁護士団長・井戸謙一さん(元裁判官)の講演の一部を資料パネルのまま紹介しよう。
• あらたな原発安全神話「新規制基準は世界最⾼⽔準の厳しさ。これに合格した原発は安全。」
• 電⼒不⾜キャンペーン「原発が運転できないので電⼒が不⾜する。」
• 再エネネガティブキャンペーン「再エネは気候任せで不安定だから、原発の代わりになり得ない。」
• カーボンニュートラルキャンペーン「⽕⼒発電を減らすためには原発を動かす必要がある。」
• 被ばく安全神話「被ばくを過度に恐れる必要はない。」
「 原発安全神話から被ばく安全神話へ!」
私たちは騙されてはいけない、というのが私の結論だ。
参考資料
・ 【主張】処理水と国会審議 「風評」を流す野党がある - 産経ニュース (sankei.com)
・【Q&A】ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント
https://foejapan.org/issue/20230801/13668/
【読者の声】
・「御用科学」は、法律を根拠にして反社を弁護する弁護士の主張と同様。科学は、アカウンタビリティや反論があって初めて意味があるわけですが、その対話の基盤のない伝統日本では、科学に意味はありません...。 😢
・こんなものを政府が小中学校に配布するとはとんでもない。子供から洗脳するプロパガンダだ。(チラシについて)
→(それに対しての声)放射線耐性にも個人差があり、免疫力が下がっている場合は影響が大きくなります。
→(高橋)
引用ですが、
放射線は『癌当たりくじ』にたとえられます。宝くじと違って、賞品が癌なのですから、こんなくじは買わないにこしたことはありません。
麻薬の場合と同様に、何と言っても、『癌あたりくじ』などという代物は発売禁止にすることが基本です。
安斎育郎著 改訂版「放射能そこで知りたい」 P8-9
その9-1
フクシマ2023 その9-1
【東日本大震災・原子力災害伝承館は何を伝えたいか、広島平和資料館との比較】
「広島平和記念資料館は、形ある資料とともに、そこにつながる人々の記憶や心の叫びを、収集、保存しています。核兵器が人間から何を奪い、何をもたらすかを、見て、知って、感じてください」
「災害がかつてないほど身近になっている今だからこそ、思い出さなければならないこと、改めて知ってほしいことがあります。(省略)
福島が向き合ってきた日々、その轍は、未来へつながる一筋の道標であってほしい。東日本大震災・原子力災害伝承館は、そんな想いで皆様をお待ちしております。」
この両館を比較すると、東日本大震災・原子力災害伝承館(以下、伝承館)の本質が見えてくるようだ。
伝承館は2020年9月20日に53億円をかけて開館。それを見たフクシマ視察仲間は「一言でいうとつまらない」と語っていたが、私はむしろ「心に響くものがまったくない」という印象だった。一方、私のFacebookに広島平和記念資料館を紹介した時、読者は「何年か前に大改修してましたね。見応えのある展示で、2日間で5時間入り浸ってしまいました」と反応してくれた。伝承館の来館者にはこんな人は、まずいないだろう。
チケットを購入すると、まず、最初に横幅8m位のスリーンのある部屋を通される。何度も見て来た津波の映像だ。私はいつも「何度も見ている」のでとパスしている。スクリーンを取り囲むように、「1984 常磐炭鉱創業」から石炭火力、原発、というエネルギー産業史が紹介されている。
小松理虔(りけん)さんは著書「新復興論 増補版 p418~419」で次のように記している。
「つまり、この伝承館の伝えたい歴史は、エネルギー産業を受けいれた『後』の歴史なのだ」
「原発事故がなぜ起きたのかということを語る展示がない」
「『伝承』というからには、原発事故の教訓を伝える展示や双葉町や双葉郡のこれまでの暮らしぶりを伝えるような展示があると思っていた。実際にはそれがない」
「この伝承館には、追悼、慰霊の概念が抜け落ちているのだ」
私自身はここでの語り部の話を聴くために、伝承館に何度も通っている。そこで、何台もの大型バスが伝承館を訪れ、学生や社会人が訪れているのを目の当たりにして、ここを見て本当のフクシマの現状は分からないだろうと、いつも悲しい気がしてくる。それより、むしろ誤ったイメージを増え付けるのではないだろうかさえ、思うのだ。
読者との対話
・お金が有り余っているから、こんな立派な建物作るのでしょう。保証に当てれば良いのではなかろうか。やったふりする風潮が見えてくる。
・横断幕から見て、建造した人は東電か政府ですか? 原発の効果を謳い上げていますね? 反省点が見られません。広島の原爆資料館と比べるのは、無理ですね。目的が違います。
→(高橋)確かにそのとおりです。
入場料や運営がまるで違います。
東日本大震災・原子力災害伝承館
〇経費と運営
資料収集に関する費用を含めた開館費用約53億円は全額を国が負担
公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構によって管理運営
〇入場料:大人:600円 小中高:300円(団体割引有 20名以上)
広島平和記念資料館
〇運営:広島市出資の公益財団法人広島平和文化センター
〇入場料:大人(大学生以上)200円(30人以上の場合、1人当たり160円)
高校生100円(20人以上の場合、無料)
中学生以下無料
・53億円‼️
今でも放射能の不安な子供達がいる。
その検査機関もないのに、何が原子力で豊かな街をと言う言葉が出てくるのは信じられない‼️
→下記の写真と「フクシマ2022」フクシマ2022 その4原子力災害伝承館の書き換えられた看板
【読者との対話:水素エネルギーについて】
読者の家では、水素発電しているんですけど、浪江町では、水素を研究しているところがあって、水素エネルギーの町作りをしています。
福島県でも、地域によって、全く違います。
これからの日本は、グローバルで考えて、地域に生きる時代なのかと思います。
ローカルに、顔の見える関係が大切になってきています。
だって、生成AIとか、chatGPTとか、凄いお金が動いているんですけど、株価は上がらないじゃないですか?
将来性のない、科学技術だと投資家には思われているんではないでしょうか?
今、EUは、水素です。
再生可能エネルギーの方が、気候正義で考えても、将来性のある技術なんではないでしょうか。
→(高橋)写真は浪江町の福島水素エネルギー研究フィールドです。
水素については日本ではまだ導入が早いと思っています。日本の電気の再生可能エネルギーの割合は2割足らず。再エネ先進国に比べれば、まだまだ小学生並み。水素より先にやることはあるのではないでしょうか。ましてや、輸入水素では輸送にCO2を使うことになってしまいます。
ドイツでは「ウィンドガス」として風車から水素を作って、ガス供給網に流しています。施設も法整備も整っています。ドイツに視察に行ったときに聞きました。それは、ドイツ北部の風車群の電気が供給過剰になるときだけです。風車群の北と南の工業地帯とをつなぐ送電網が弱く、新規建設に反対運動もあるとのことでした。
もっとも日本でも需要が多い時期には電力需給がひっ迫する一方、需要が少ない時期には供給が過剰になり、再エネ由来の電気が余ることもあります。その時には再エネをストップさせて、電気を捨てているありさまです。
日本政府は「水素エネルギー普及へ 政府が基本戦略決定 官民15兆円超投資へ」と言っていますが、座礁資産になりかねません。ますます世界から取り残されるでしょう。
フクシマ2023 その9-2
【東日本大震災・原子力災害伝承館は何を伝えたいか、
その2 悪党は数字でウソをつく??】
「この数字と文言に注目してください。『福島県内の空間線量は海外都市とほぼ同じ同水準』と伝承館を案内している私。
「高橋さん、でも先に行った東電(廃炉資料館)でも同じものを見ましたよ。休憩室にありました」。
何度も通った東京電力廃炉資料館からの引用であるとは、知らなかった。おそらく東電の資料を使ったのでしょうか?
大型バスでこの伝承館にくる人達は、国道6号線(道路の空間線量が高いため、2011年4月から14年9月まで通行止めだった)から入ることでしょう。途中には新しい家々もようやく立ちはじめたのを見ることができます。22年8月30日に伝承館立地の双葉町一部地域で避難指示が解除され、住民の帰還が始まりました。しかし、95%が「帰還困難区域」に指定されたままです。
来館者は「福島県の放射線量が世界と同じだ」と思い込ませられるかもしれません。
だが、0.06μSV/hの数字は都市であって、福島第一原発の周辺の町々ではありません。そのすぐ横の地域の線量はまったく違います。下の写真はこの伝承館の裏道の状況です。伝承館付近の「双葉町青年婦人会館」では、その20倍近くの1.188μSV/hもあります。駐車場の車両は12年間以上放置され、パンクの状態です。
「『悪党たちは数字でウソをつく方法をすでに知っている。だから善良で正直な人々も、自衛のためにそれを学ばなければならない』とは、統計のウソに関する名著で知られるダレル・ハフの言葉である(ハフ、1968)。統計データをクリティカルに読むスキル(統計リテラシー)は、情報化社会に生きる私達にとって、必須のもの」
放送大学教材 菊池聡著「より良い思考の技法 ―クリティカル・シンキングへの招待―」p23
〇撮影 2023.5.19 高橋
〇参考
福島 双葉町 帰還困難区域の一部 避難指示解除から1年 | NHK | 福島県
【読者との対話】
読者
私は、山形県の鶴岡の方が、おだやかな革命という映画があった頃に、家は東京ガスなので、PANASONIC製のエネファームというので、ハイブリッドなんですけど、水素発電にしました。
ディープラーニングをして、お得な発電をするんです。
ガスの中から、水素を取り出して使うというもので、電気代が少しお得です。
値段は、補助金が出て、100万くらいでした。
今、車の軽自動車も、新車だったら、そんな値段で買えないと思って即決しました。
再生可能エネルギーでも、規模の小さいものを分散化した方が、環境にも、セイフティーネットで考えても良いかと思います。
私は、農業のボランティアもしているんですけど、今は、小規模多品種少量生産で、リジェネラティブという、大地再生という意味の農が、世界の潮流みたいです。
アウトドアブランドのPATAGONIAもやっています。
そういう農法の方が、CO2も出さないみたいです。
ローカルの時代なんではないでしょうか?
メガソーラーとかだと、今、八ヶ岳なんかで、森を切り開いて、これじゃ原発と変わらないと言っているんです。
今、銀行なんかも、信金とか、地銀が、地域に根差していて、増収増益と言います。
私は、自宅で、水素発電して、エネルギーを地産地消して3年になります。
森、3つと、木、18本、CO2を削減しましたと表示されました。
ビジネスを大規模にやってしまうと、小さな存在の方々に影響が出てきます。
今、日本経済は厳しいですけど、地域課題、社会課題で起業している若者が多いです。
グローバル資本主義が行き詰まっていて、今、無印良品とか、イオンとかの大企業でも、多様なニーズに応えるために、小規模店を展開しています。
おだやかな革命という映画の内容は、そういう問題提起をしています。
大量生産、大量消費とかに、疑問を投げかける内容です。
地方再生の参考になる映画です。
高橋
コメントありがとうございます。
エネファームについてはよくわかっていません。
「メガソーラーとかだと、今、八ヶ岳なんかで、森を切り開いて、これじゃ原発と変わらないと言っているんです」にはまったく賛成です。これは日本のおそらく世界でももっとも最悪なひとつのFIT制度のためです。
https://fukushima-wasurenai.jimdofree.com/8-論文-固定価格制度の功罪-政策決定までの問題点-を探る/
に書きました。
「だが、買取制度の下で現在、そうそうたる大企業が再エネ発電事業に参入し、・・・
これまでの火力や原子力といった集中電源を、メガソーラーという新しい電源に置き換えただけ、という結果に終わりかねない。・・地元企業の成長や雇用の拡大、そして、地域における生産技術の蓄積にも必ずしもつながらない。
そして、せっかく稼いだ売電収入も、メガソーラーの立地地域から吸い取られ、その企業の本社のある東京や大阪に吸収されていまう」
諸富徹編集「再生可能エネルギーと地域再生」P1
その10
フクシマ2023 その10
【中間貯蔵施設のジレンマと矛盾】
「昨年、2022年3月に福島県内の46市町村からの除去土壌の搬入は終わっています」と中間貯蔵施設の視察で話されていた。
「でも、国道6号沿いに未だフレコンパックがあるのを見ましたが・・」と私。
「そこは帰宅困難区域で、帰宅困難地区は除いてです」
ここは福島第一原発を囲む約1600haの中間貯蔵施設だ。15年から除去土壌の搬入が開始され、最大で大型ダンプ延べ3000台/日になったこともある。待機待ちの巨大な駐車場には1台のダンプも見えなかった。帰宅困難地区となっているので、一般人は立ち入ることができないが、毎月見学会が行われている。(要予約、身分証明書提出義務あり)
ここは民間地が多く、まだ被災のままに残されているところがある、数少ない場所だ。いや、非難困難地区の立入ができないので、おそらく唯一被災後の風景を色濃く見ることができる場所だろう。見学中の民間市施設は撮影禁止だ。見学会最中、正八幡神社神社に通され、地元の人が今も大事に管理して、祭りも行われたと紹介していた。
トップ写真は満杯になった「大熊4区」の土壌施設だ。(後方に見えるのが福島第一原発) 処理された土壌は高さ15mに積み上げられ、その上に通常の土壌60㎝を積み上げ、草を植えて完了する。横には浸水処理施設もある。こうした施設が8区ある。
この膨大なフレコンパック1374万袋(1400万㎥、東京ドーム約11杯分)の土壌は、搬入開始から30年後となる2045年3月まで、県外に最終処理をすることになっている。そのために東京都の新宿御苑に持ち込む計画がある。
検査院が、2021年度までにかかった費用を調べたところ、被災者らへの賠償が7兆1472億円、除染関係が2兆9954億円、中間貯蔵施設関連が2682億円。この土壌運搬にはさらなるダーティビジネスが生まれるのではないだろうか?
取材・撮影:2023.5.19 高橋喜宣
〇環境省新宿御苑で実施予定の実証事業に関する説明会2022(令和4)年12月21日資料 info_session_221221.pdf (env.go.jp)
〇参考資料
青木美希著「地図から消される街 3.11後の『言ってはいけない真実』」
この第2章「なぜ捨てるのか、除染の欺瞞」には、「多重下請け構造の深き闇」「除染ならぬ移染」など取材に基づく、除染ビジネスの実態が描かれている。
フクシマ2023 最終回
【被災の語り部、無人の中野地区に未来の想いを寄せ】
「原発に反対か賛成かという話しではない。10年後を見据えた計画が必要です」とかつてここの双葉町中野地区にお住まいだった、震災の語り部の高倉伊助さん。
2022年9月8日に東日本大震災・原子力災害伝承館にて、高倉さんに語り部としてお会いした。この日、Facebookの呼びかけで視察に同行した二人とともに現地でお話を聞いた。高倉さんは現在ここから約100㎞弱離れた須賀川市に在住しているが、双葉町行政区町会の浜野行政区長も務めている。
「わざわざ来ていただいたなんて、なあに恐縮することはないですよ。仕事のついでに案内しているのですから。何でも書いてください。名前も公表していいですよ」
「ここは国が買い上げた地です。無断で人の家に入ったという心配はありませんよ」
「この地区には震災前は50世帯(約250人)が住んでいました。今は誰ひとり住んでいません。でも、皆が集まる場所をと神社を再建、神戸の神輿をもらって、お祭りもしました。今、ここに休憩場所を建設中です。神戸から宮大工を呼んで、飾りを作ってもらいました」
「祭壇のある農作業所で亡くなられた2ヶ月のお子さんは男の子、女の子かって?
分かりません。とても聞けなかったです」
「祭壇に花束をささげている人ですか? ここに住んでいた人は遠くに移転してしまっているので、違うでしょうね。でも、行政の人たちが花束をささげるって、とても考えられませんよ」
「できるだけそのまま残してほしいと行政には伝えていますが、どうなるか分かりません」
双葉町はここを含む広域地帯を「震災の記憶を伝承し教訓を未来に伝える『アーカイブ拠点施設』や、犠牲者を追悼し、福島の復興に向けた強い意志を示す『復興祈念公園』が整備され、中野地区は復興ツーリズムの中核的拠点になりうる」としている。
「フクシマ2023」シリーズもこれで12回目の最後となる。このシリーズも4年目だ。フクシマに通うようになって10年。しかし、どこまで皆さんにフクシマのあまり報道されていない現状をお伝えできているのでしょうか? 例えば、ジャーナリストの青木美希著「地図から消される街 3.11後の『言ってはいけない真実』」のように「これで、記事にできるところまで裏付け取材は一段落した。もう2時間が過ぎた」(同230頁)のように十分な取材はしていない。市民活動の本職である脱原発、とりわけその実現のための再エネ普及活動の片手間に行っていると言えるかもしれない。
読者から「Facebookで持論を展開するのも、とても違和感があります」とか、「最近のFBの投稿は反原発の主張が主になっていると思われます。反原発一色の活動には協力できかねます」という批判もあるが、皆さんの支えでこれまで書き続けることができました。
ありがとうございました。
撮影・取材:2023.5.19 他 高橋喜宣