小水力発電所の現地報告
2019年から2021年の3年間、NPO市民電力連絡会の協力で小水力発電所の郵送アンケート調査をしてきましたが、定量調査だけでは分かるものは少なかったです。2022年は数値化できない定性調査に力をいれ、これまでの調査の中からピカイチな発電所を取材しました。
調査にあたり、交通費を市民電力連絡会に出していただきました。ありがとうございます。
4ヶ所を掲載しました。2022.11.23 高橋喜宣
更に2023年1ヶ所追加
2024年1ヶ所追加
その5 松隈小水力発電所―40 世帯の集落全戸のお金と資源で、まちおこし―
その6 馬野川小水力発電所― 地域総合力で、大正時代の発電所を現代のテクノロジーで復活
その7 「六甲川水車新田」小水力発電所 住宅地の自然共生型発電、環境学習と憩いの場に
その8 南川サイフォン式小水力式発電所 市民による標準化開発とノウハウ蓄積を目指す
その9 卒FIT後も、脱炭素と地域振興のため小水力発電を活用、発展
その10 黒土川小水力発電所~小水力発電所で、山間地区の課題解決
小水力発電所 その5
●松隈小水力発電所―40世帯の集落全戸のお金と資源で、まちおこし―
*設置者:松隈地域づくり㈱ *発電出力 30kW、年間発電量23万kWh
その1
佐賀県吉野ヶ里町にある松隈小水力発電所は、2020年11月に売電を開始、今や全国から150人以上が視察に訪れ、県の「佐賀モデル」になり、21年全国知事会で「ゼロカーポン部門」で全国1位、「脱炭素チャレンジカップ2022」環境大臣賞グランプリ受賞、するなど数多くの賞も得て注目を浴びています。
ソーラーシェアリングは発電のためでなく、農業振興が主であるように、中山間地域(中間農業地域と山間農業地域を合わせた地域、山地の多い日本では、総土地面積の約7割を占める)の振興に、小水力発電所は要になっていく可能性を示す事例です。
〇「弱いリーダー」だから実現、地域集落全員が資本金を出資
「『弱いリーダー』だからこそできました」とこの発電の計画から建設まで実施した「㈱リバーヴィレッジ」(九州大学発のベンチャー企業)の山下輝和さん。「俺の言うことを聞けというようなリーダーは地域事業でトラブルを起こしています」と言います。ここのリーダーは旧東脊振村の職員から村長、町議、吉野ヶ里町長も歴任した人物。でも多良正裕さん(72)は、説明会を含め集落で何度も話し合いを重ねました。そして、松隈地区40戸(125名)全世帯に株主になってもらい資本金18万円(1株千円、農家5株、非農家4株)の「松隈地域づくり㈱」を設立、無給の代表取締役になり、水という地域の財産と集落のお金で昔あった小水力発電所を復活し、高齢化の進む集落の課題を克服しています。
〇建設費のお金は集落の積立金から、補助金なし
発電所建設費用約5900万円は、日本政策金融金庫から4700万円(無担保、2年後から20年間で返済)と松隈地区の積立金1200万円(10年で返却)で賄いました。一切の補助金はもらいませんでした。同時に、一級河川田手川「一ノ瀬井堰」からの農業用水取水口を集落のお金800万円で改修。ここの砂取作業に全戸で大変な苦労をして行っていましたが、砂掃専用水門増設で一人でも可能になりました。
でも、小さな集落は数百万円の小水力発電所建設可能性調査の金銭リスクを負えません。ちょうど佐賀県では18年に「佐賀県再生可能エネルギー等先進県実現化」構想を策定。その方策のひとつとして「事業性のある30kWモデル」の検討が始まりました。そして可能性調査が始まり、モデル地区としてこの松隈地域が選ばれました。これがこの事業の後押しになりました。
この地には大正時代に村の力で発電所の組合(東脊振村産業組合)を作り、「松隈発電所」を建設した歴史がありました。村長が吏員組合書記を兼務していました。「ランプやロウソクの時代に電灯をともし社会情勢を一変させた地区であるとの自負を持っていた」そうです。当時、発電機は36kW(16m強の落差)、総工費68516円、加入者603戸というもの。1937年には補強工事が行われ、1946年に九州電力に経営移譲し、1967年まで30年間稼働していました。
●松隈小水力発電所―40世帯の集落全戸のお金と資源で、まちおこし―
*設置者:松隈地域づくり㈱*発電出力 30kW、年間発電量23万kWh
その2
〇若者の「ベンチャー企業」との出会い
多良さんは村職員時代にすでに地域おこしグループを立ち上げ、活動を始めていました。そんな中、九州大学院の島谷幸宏教授(工学博士、システム情報科学研究院 情報知能工学部門)と知り合い、15年前にFIT制度が制定する前にこの地で小水力発電所の可能性をみてもらったことがありましたが、水量不足で断念したことがありました。
11年より、教授は観光地として有名な白糸の滝にて小水力発電の自治体との連携事業に携わりました。小水力発電を研究する教授や教え子の学生が一体となり、当初から深く関わってきました。その学生たちが教授のすすめで「島谷さんのノウハウを生かし小水力発電所を普及させよう」と、13年にベンチャー会社を設立しました。(資本金1000万円、代表・川村朋美、従業員7名)
目指すものは、「『水』『地域』『社会』がキーワードである。現在の課題を解決するために、私たちはこれに『エネルギー』を加える。小水力発電の導入というプロセスである。 われわれは、『モノ』を売りものとしていない。扱うものは、社会が変わる『プロセス』である」と山下輝和さん。
高齢化集落が、そんな20-30代の若者集団を選んだのも、成功の鍵であったといえましょう。また、その出会いは「地域おこし」のキーワードで結んだ大学院教授でした。
〇採算性を証明、トラブルなしで継続中、予想を上回る発電
多くの小水力発電所は初期トラブルが発生するようですが、ここではまったくありませんでした。(取材当時の段階、その後、トラブルはあったという話も聞いているが、取材していないので、詳細は不明だ)
この水力発電所の特徴は、最大出力30kWで事業が設立すること。豪雨の影響で1週間停止した以外、順調に稼働し、当初の年間目標売電額700万円(FIT34円/kWhで販売)を大きく上回り約800万円を達成、十分に採算性があると証明しました。
コスト削減に地元企業開発のコンテナ式発電所(3.6×2.5m)を採用。従来の個別品をワンパッケージにして内部にすべて収納。トラック1台で運べ、建屋は不要、アンカーボルトで4つの角を固定するだけ。水圧菅を接続し、コンテナから電線を配線します。設計は㈱中山鉄工所(佐賀県武雄市)が独自の低騒音化で行い、水車を含む組み立てはインドネシアで行いました。落差10-100m、流量が0.02~06㎥/秒があれば、発電できるような設計。ここの発電所は落差21.9m、流量は0.2㎥/秒、既存の慣行水利権使用水量です。発電機(㈱安川電機製、北九州市)と制御盤は日本製。遠隔装置付きで、リアルタイムで状況が携帯で把握できるようになっています。
多くの小水力発電所ではゴミを取り除くのに苦労していますが、ここでは一度も困ったことがないそうです。除塵機は設置せずに、流水の力でゴミを除去する構造。網目が目詰まりして水圧を感知すると自動で出口を絞り吸水を弱めます。すると水の力で自然にゴミを元の用水に押し流します。これはチロル型式(オーストリアのチロル地方に古くから見られるタイプ。取水堰の天端下流傾斜部に、取水堰を適切な傾斜角、長さおよび間隔で取付け、バーのすき問から落下する水を集水路で受ける型式)といわれるもので、今までの技術に少し手を加えました。この設計によって、落ち葉などの除去作業はほとんどありません。
用水路の総延長は約500m、ヘッドタンクからは直径0. 4mの導管を農地や町道に約270mコンテナまでは埋設しました。地形を最大限生かして、もともとの土地に大きく手を入れることなく、水質汚濁や水中生物に及ぼす影響を極めて少なくしました。
当初の設計では農地を通す計画でしたが、農地転用など農業委員会の手続きが難題となりました。よって、関係機関との調整を行い、路線を変更して町道に埋設することにしました。しかし、町道の占用許可は毎年更新して占用料を納付しています。
(下に続く)
●松隈小水力発電所―40世帯の集落全戸のお金と資源で、まちおこし―
*設置者:松隈地域づくり㈱*発電出力 30kW、年間発電量23万kWh
その3
〇地域の雇用も生む、逆転チャレンジの「まちおこし」
吉野ヶ里町(06年三田川町・東脊振村が対等合併し、吉野ヶ里町が発足)の中山間地に位置する松隈地区は、高齢化が進み、現在の高齢化率38%から5年後には52%と予想されています。農業戸数としては20世帯ですが、実質稲作農家は3戸で、他は地区外からの野菜栽培が行われ、農地の約1/3は休耕田か荒廃田になっているのが現状です。
「10年先を見据えると、高齢者の生活支援体制を整え、安心して安全に地域で暮らせる対策が求められています。行政に頼るのではなく、自らが考え行動を起こすことが大切です。これには独自の財源の確保が必要になりました」と多良さんは訴えます。
松隈地域づくり㈱は、毎年集落に120万円返済している他に、水利権・用水路使用量として毎年100万円払っています。「何に使うか頭を使いましょう」とそのお金でさまざまの取組をしています。
発電開始後、まずは「みつばちに優しい集落づくりプロジェクト」を発足させました。地区内の休耕田や荒廃田を減らしていく取組みで、レンゲソウを植えました。レンゲソウはマメ科で根に根粒菌を持つものが多く、土中の窒素を根に蓄えて土壌を肥沃にする性質があります。化成肥料が使用されるようになる前には、よく田畑を肥沃にする目的で植えられていました。開花後はそのまま田畑にすき込んで緑肥としても使用されていました。春にピンク色の花を咲かせ、レンゲソウから作られるレンゲ蜂蜜も有名です。県養蜂協会と連携して、子どもから大人まで参加して種まきをしました。ハチミツは特産品として販売予定です。また、5年計画で、除草作業軽減のために斜面地にアジサイを植えることにしました。現在、毎年苗作りに取組み、3年苗を草刈り作業困難な傾斜地に定植します。
昔からこうした作業には地区からお金を支払う仕組みがありました。その財源は各戸から年間1万2千円いただいていましたが、これを1万円に減額。作業費は1日3000円を佐賀県の最低賃金以上の7,000円に改定しています。従来、女性は男性の8割と男女賃金差はありましたが、同じ額にしました。また、高齢者にも「座って草むしりだけでも」と声掛け、参加しやすいようにしています。
今後は「松隈お助隊」を結成し、気軽に手伝って、助けてと言える窓口を開設、軽作業の電球の取り換えや重い物の運びなど、身の回りの困りごとに解決を図ります。また、「里山守り隊」を結成し集落周辺の環境整備を有償ボランティアで対応してまいります。
などなど、こうした行政に頼らないで自立的な持続的な取組をすすめていくそうです。
この水力発電事業はFIT制度の期間20年が経過しても、整備・部品交換を適切にすれば40年以上稼働が可能です。この事業によって、「自由な発想で生活しやすい環境に整えていくことが可能になりました」と多良さんは語っていました。
20年続く売電益は地域に還元、里山のお助け隊や守り隊などにつなげようとしています。また、地区を誇りに思う心や地域づくりに住民の関心が芽生えてきました。「脱炭素、持続可能な地域づくりの視点から小水力発電所に取り組むことで、集落は活気がでて自立してきました」と多良さんは地区の未来を語り始めています。
2022.8.2・3 高橋 取材・撮影 (提供写真を除く)
オリジナル版 (「市民発電所台帳2022」では紙面の都合で縮小版を掲載)
読者から
・「全国から「ピカイチ4ヵ所」を厳選されたとの事、力作です。
・里山資源を生かした小水力発電に関心が有りますご指導頂きたく宜しくお願い致します今後どう対応して行けば良いかお知らせ下さい
・地域に利益を還元。凄い!メガソーラー発電所は全く地域に利益を還元していない。
・やっぱり小水力発電の方が、自然エネルギーを身近に感じますね。
・地域貢献大賛成です。
・詳しい現地調査のレポートで、小水力の内容がリアルに理解できました。地域での環境循環こそ持続可能な再生可能エネルギーですね。明るい未来が開けた様です。ありがとうございます。
小水力発電 その6
馬野川小水力発電所
●地域総合力で、大正時代の発電所を現代のテクノロジーで復活
*設置者:みえ里山エネルギー㈱ *発電出力 199kW、年間発電量103万kWh
馬野川(ばのかわ)小水力発電所は、三重県伊賀市の淀川水系最上流部にあります。「これでだめか」と思うような困難を克服し、特許を取得できるような設計と現代のテクノロジーを駆使し、調査開始から6年後2019年9月運転を開始しました。地元の若き経営者が東日本大震災以降、再生可能エネルギー事業に関心を持ち、みえ里山エネルギー㈱を設立し運営しています。小水力発電所は100あれば100通りですが、この発電所のノウハウは小水力発電所の教科書的なモデルとなるでしょう。
〇補助事業の不採択が生んだ5者チーム、課題を克服
「初めは地域協議会で事業をと考えましたが、補助金申請は法人のみです。FIT制度がどうなるか分からず、kWhの1円の違いが大きく影響するのでスピードも必要でした」と松崎将司さん(45)。そこで、自身が経営する会社(株式会社マツザキ、土木建設業、太陽光発電設置事業も。資本金2000万、従業員9人)の負担で建設することを決断しました。
しかし、最初の補助金申請「第二創業」事業は、金融機関の承認印をもらいましたが、不採択になりました。そこで信用金庫の勧めもあり、調査・設計の5チームを誕生させました。三重大学、地元の北伊勢上野信用金庫、土木コンサルタント、機械・電気系コンサルタント、そして、ほぼ “ロハ”で土木工事を自社で引き受けた松崎さんの会社がスクラムを組んで設計、自然共生型の発電所建設につなげたのです。
小水力発電には十分な調査が必要です。調査設計に3回にわたり約1500万円の補助金を獲得しましたが、会社の出資も約1000万円。2014年度「新エネルギー等共通基盤整備促進事業」は調査のために全額でましたが、2015年の「ものづくり・商業・サービス革新補助金」は自己負担が1/3。この補助金は3千万円まで可能でしたが、767万円を申請。可能かどうか分からないうちに、会社を傾けるような投資ができなかったからです。実施できそうになって、2016年に「水力発電所発電事業化促進事業費補助金」(補助率1/2)を獲得して、初めて詳細設計に取り掛かりました。
ここの導水路の技術は、三重大学地域イノベーション学研究科の坂内正明教授と共同研究し、設計事務所と共同で「通気立管の構造とそれを利用した無動力強制排気方法」の特許をとることができました、また、「初めから信用金庫が事業計画に関わってくれたことが大きく」、信用金庫は事業計画に参画しただけではなく、工事費総額3億6500万(土木工事1億5400万円、発電・電気施設1億4900万円、建屋1200万円他。接続費用200万円は別)の内、その約半分を融資してくれました。「合同会社おおい町地域エネルギー」の「南川サイフォン式小水力発電所」の総事業費2億4600万円の例では、地元信用金庫は1000万円融資しかない。それと比較しても、破格な扱いです。残りの半分は政策金融金庫だった。
これは本誌事例紹介事例〇〇にあるように、総事業費2億4600万円の水力発電所への地元信用金庫1000万円融資と比較しても、破格な扱いです。残りの半分は政策金融金庫。
更に、同信用金庫山田支店の電気は、株式会社UPDATER(旧:みんな電力株式会社)を通じてブロックチェーン利用によりここの水力発電の電気で100%賄っています。4者チーム全員と「馬野川小水力発電所建設工事・担当技術者」として合計23人の名が建屋内のプレートに刻まれています。チームの思いがここにも現れています。
(下に続く)
〇おらが水と昔の小水力発電所の思い
株式会社マツザキと発電所が設置された地域は、2004年に伊賀市との合併前まで大山田村という人口5700人程度の村。地区の古老に計画を話すと、この地区に昔発電所があったというのではありませんか。「馬野川水電発電所」(伊賀馬野川水田㈱が1919年創業開始。約60kW)の場所を候補地に選定、同じルートに導水管を通すことにしました。
何よりも、昔の発電所を経営したお孫さんがご存命で、予定の取水口から発電所までの土地を一括して格安の値段で貸してくれることになりました。「小学校のときにその発電所まで遠足にいった」という70代の方も地域協議会のメンバーになってもらうなど、おらが水という意識の強い住民にも、すんなり受け入れてもらえました。しかし、完成までには大きな壁がありました。
〇あきらめかけた川の認可と予想外の問題発生
山奥の川には地図上では「堺」がありますが、明確ではありません。これが計画を断念するような大問題となりました。同じ川なのに、下流は三重県管轄の一級河川、上流は伊賀市の普通河川になっていました。伊賀市からは認可がとれましたが、三重県は取水に必要な堰の新設を認めませんでした。
本ホームページ「小水力発電所その1」で紹介した宇奈月谷小水力発電所は、一級河川からの取水ですが、国はだめでも富山県に移行されたら認可されました。「三重県は事例がなかったから認可できなかったのでしょうが、この計画はもうダメかというところまでいきました」。しかし、なんとか交渉を重ね、境界線を確定してもらいました。しかし、昔の取水口での設置はかなわず、上流に幅10m、高さ1.5mの固定堰(無筋コンクリート、幅4.0m、高さ1.5mの自動転倒ゲート付)を設置できましたが、取水口周辺の土地は、松崎さんが個人購入しました。
もうひとつの課題は天然記念物のオオサンショウウオの保護対策。下流に生息が確認されていました。そこで、「オオサンショウウオの現状変更申請」の書類を伊賀市教育委員会に提出しましたが、十分ではありませんでした。専門家を紹介してもらい、「減少区間に生存可能か」検討、アドバイスどおり実施計画を立て、三重県教育委員会を通じて文化庁長官より認可されました。また、50~70cm位のオオサンショウウオが堰を登れる通路を作り、護岸の下には人工の魚巣も設置しました。1年目、2年目の追跡調査で産卵も下流で確認されています。
(下に続く)
〇委託事業として住民自治協議会の活動を継続
旧大山田村の住民自治協議会と委託契約し、毎年20万円の固定費+100万kWh超えると20円/kWhを支払い、見学会など環境啓発や再エネ普及費に使われています。「寄付ではいけないのか」という意見もありましたが、委託費は経費で落とせるし、消費税の仕入控除もできるからです。また、地産地消の取組として大山田小・中学校にもなんとか電気を供給することができるようになりました。
なお、運営会社のみえ里山エネルギー株式会社(資本金500万円)は株の50%超が株式会社マツザキ所有です。株式会社マツザキがこれまでの補助事業の研究開発の成果物を無償譲渡するための条件でした。他は松﨑さん自身と両親などに出資してもらっています。
〇新技術の開発と導入、新たな問題が
三重大学との共同で導水路の独自開発。水車類は海外製が安かったのですが、部品供給や性能を吟味して田中小水力を選択しました。各地を視察して除塵に苦労していると知り、広洋技研の小水力発電用自動除塵機(ワイヤーベルトスクリーン方式)を採用。1日3回と、詰まって水位が4-5㎝上がると自動的に稼働します。更に光ケーブルを設置して3か所にカメラを設置して遠隔監視。更に、夜のゲリラ豪雨対策として濁度測定装置も設置しました。年間3700万円の売電収入を安全に安定的に得るためであります。しかし、2021年度はほぼ計画どおりに発電できましたが、2022年度の予想は80万kWh。黒潮大蛇行変動のためともいわれていますが、冬の降水量が少なかったからです。
最後に「発電運営を通じて、豊かな自然環境を保全し、持続可能な地域づくりを実現したい」と松崎さんは語っていました。
取材・撮影 2022.7.16 高橋喜宣
初出 「市民発電所台帳2022」
交通費とレンタカー代を市民電力連絡会に出していただきました。感謝。(宿泊代は自費)
読者の声
・山の、自然の破壊です。こんなこと、もうやらないでください。
回答
その7
「六甲川水車新田」小水力発電所 兵庫県神戸市
設置者:NPO法人PVネツト兵庫グローバルサービス 発電出力:19.9kW
● 住宅地の自然共生型発電、環境学習と憩いの場に
自宅に太陽光発電を設置する人々で作る全国組織(認定NPO法人太陽光発電所ネットワーク)の一地方組織が、「太陽光だけでなく、自然エネルギー全般に取り組もう」と2021年4月神戸市灘区に全国でも珍しい本格的な都市型小規模水力発電所を建設しました。団体名は「NPO法人PVネツト兵庫グローバルサービス 代表者 北方龍一」です(2013年設立)。目指すのは「市民レベルで脱炭素地域つくりに協力し、地域資源を有効に活用すること」です。名前にはグローバルな視点も加味しました。その道のりは行政の許認可や技術問題、地域住民との関係など苦労の連続でした。
● きっかけは「水車新田」の水車復活
江戸時代の中頃、新しく田を開き水車を使って生活をすることを目的に水車新田(すいしゃしんでん)集落が作られました。江戸時代六甲川では最盛期25輌の水車が稼働し、菜種油、小麦の製粉、灘の酒造用の米をつく動力として活用されていました。明治維新後も栄えていましたが、大正末から昭和の初め頃にかけて電気・蒸気による精米に切り替わり衰退、1938年の阪神大水害により残っていた水車も姿を消しました。
その水車跡地を発電所として復活させようと、構想10年をかけて現代に実現させたのが水田新田小規模水力発電所です。六甲川には多くの砂防ダムが建設されてきました。その中から宮坂砂防ダム(1953年5月完成、高さ15m、長さ38m)を適地として選択。砂防ダムは完成から40年以上経過し、砂利や土砂で埋まっています。そこから流れ落ちた水が溜まった天然の滝つぼからサイフォン式で取水し、六甲山の急傾斜を流れる水を、総落差30mに配置した配管に流して発電機を回します。最大出力は19. 9kW。発電した電気は生活協同組合コープこうべ(地域新電力コープでんき)に供給し地元のユーザーで消費、電力の一部地産地消が実現しました。
● 環境配慮に樹木調査重ね
現場は第一種住居専用低層地域で、河川の西側は斜面地の砂防指定地で第3種風致地区。設置した敷地は1万㎡を超える山林です。30年近く手入れされていませんでした。理事長の伝手で、この土地を旭化成不動産より無償提供を受けました。建設にあたり既存の樹木をできるだけ残しました。地元の「NPO法人ひょうごの森の倶楽部」と相談して、神戸大学の農学博士・黒田慶子教授から助言と指導を受けています。同教授の研究室に依頼して植生調査を実施、学生のフィールドワークの場として提供しました。
また、近隣住民や学生も巻き込んで、里山林として「環境学習」や「憩いの場」として活用、管理を目指しています。そのため、毎月、整備の日を設定し継続的な活動をしています。小鳥の巣箱づくり、チェーンソー講習会、森で伐採した木材を利用して薪づくり(Field Seven明石店でテスト販売開始)、キノコ栽培の試行も始めました。
(下に続く)
● 騒音苦情で追加工事と4ヶ月の夜間停止
標高約224mから標高194mまで流れる水圧管は、埋設ではなく、地上露出設置です。工事中は足場を組んで、森の木々の間を縫うように設置しました。工事用道路はなく大型重機が入らないので、バケツリレーで基礎のコンクリートを運んだ箇所もありました。取水口の除塵には苦労しています。取水口の枝葉流入防止用の網は3度も種類を変えました。取水口から直径300mmのステンレス鋼管を満水にして流し、途中に独自設計の除塵用のタンク(4㎥)を置きました。このタンクに開閉弁開閉時の水撃圧がかかり溶接部が破損して漏水が発生したこともあり、水圧計を設置するなど工夫しました。タンクから下は直径300mmの塩ビ管です。水車(大晃機械工業製・ポンプ逆転水車)・発電機(安川電機製・永久磁石式3相同期発電機)の設置場所には建築基準法やコストの関係で建屋を設置しませんでした。放水は川の護岸から水管を出すことは許可されず、当初は高いところから流しました。
その結果放流音が大きくなり、近隣の方から「せめて夜間だけでも止めて欲しい」との苦情が理事長に寄せられました。そこで夜間4ヶ月停止し、放流管の位置を六甲砂防事務所に掛け合い、許可を得て直接川底に流し込むようにしました。
乾期に入ると、1年以上流水調査をしたにもかかわらず、思うような水量が得られません。異常気象のせいでしょうか。取水が少なくなると、自動的に停止・運転を繰り返す仕組み(間歇運転)となっています。又水車入り口のヴァルブの開閉時にかん高い機械音が発生するので、一級建設士の理事長が設計し、自ら施工して、水車、発電機及びバタフライヴァルブ部を鉛の箱で覆い、最大80㏈から60㏈に下げました。
● 完成までの許認可に大きな壁
設置場所が広いため、地権者など法務局に何度も通い登記情報を調査するなどして、様々な困難を乗り越えてきました。国、県、市から取得する複数の許認可の中で「一番困難だったのはFIT認定」でした。川は普通河川で、神戸市の管轄。川の両岸は国有地でしたが、途中に川に流れこむ水路があり、地方分権化で自治体に移管されるべきであったところが、移管漏れで名義は国有地のままでした。この水路を水圧管が横断する許可をとらなければなりません。近畿経済産業局まで行って直談判しましたが、認定規定外のことで、水圧管の横断許可が得られなければはどうしてもFIT認定はできないというのです。工事が始まる直前でした。神戸市と交渉して、国から自治体に名義を移転してもらい、神戸市から横断許可を得てやっとFIT認定をとることができました。
● 資金は県の融資・補助金と施工会社からの借用金で賄う
工事費は総額約6300万円。住宅地なので系統連系の接続費用は24万円で済みました。費用は主に県からの融資(3000万円)と補助金(2000万円)で、足らずは総合施行会社の工事費一部延べ払いで解決しました。工事の総合施行会社の「株式会社みつば電気」(兵庫県尼崎市、資本金2000万円)は電力操作盤やソーラーシステム専門で、我々の古いメンバーです。他に、小水力発電設置に対する地域住民の賛同を得るための啓発活動や、設置エリアの活用構想作りのための活動資金として「地球環境基金」、「コープ環境基金」より助成金を頂いています。
年間売電収入(34円/kWh)は年間12万6千kWh、440万~50万円を予定していますが、初年度は前述の理由で200万円を切ってしまいました。更に、設備の固定資産税約30万円(3年間半額)がやがて倍近くになり重くのしかかってきます。
代表者の北方理事長(86)は「若者が先人の知恵を学びながら、環境や再生可能エネルギーに関心を持つ場になってほしい」と期待すると語っていました。
*令和3年度気候変動アクション環境大臣表彰(普及・促進部門/緩和分野)において【大賞】を受賞しました。
取材・撮影(@を除く) 2022.6.15 高橋喜宣
初出 「市民発電所台帳2022」
読者の声
・GPPでもこんな発電所欲しいですね
小水力発電所 その8
南川サイフォン式小水力式発電所 福井県おおい町
*設置者:合同会社おおい町地域電力 *発電最大出力127kW、年間発電量86万1千kWh
●市民による標準化開発とノウハウ蓄積を目指す
2021年12月21日、合同会社おおい町地域電力は「南川サイフォン式水力発電所」の売電を開始しました。6年かけて完成させた発電所の成功の鍵は「地域の人にどれだけ理解してもらえるかでした」というのは同社代表社員の吉川守秋さん。ここは砂防ダムを活用した全国でも数少ないサイフォン式小水力発電所です。どのようにして、地域をまとめ地域活性につなげたのでしょうか。
■ 地域とのつながり、市民太陽光発電所建設がきっかけ
きっかけは、吉川さんが代表取締役を務める㈱ふくい市民発電所第7号機(太陽光発電31.2kW、15年4月完成)の建設です。おおい町の「ooiみらい塾」との市民発電所事業でした。それから地元の「NPO法人森林楽校・森んこ」、小水力発電コンサルタント事業者「理想電力㈱」(福井市、吉田裕則代表取締役は30代)の3団体に拡大させて、更にオブザーバーとして町役場も参加して、持続可能な地域づくりを目指して小水力発電に取組みました。ちょうど県の小水力可能性調査の中で、適地があると分かりました。
「成功の秘訣はマニュアルどおり、ひとつひとつ具体的に道筋を立てて実行していくことです」と吉川さんは強調します。準備会では調査研究や地域シンポジウムの開催からスタート。17年の1年間流量調査をしながら、同年9月に「一市町一エネ起こし」地域協議会を発足させました。事業性評価と事業計画を作成して、19年4月に「合同会社おおい町地域電力」(資本金500万円、本店おおい町、支店福井市。社員は、地元住民やNPO法人、企業など25個人、団体)を設立。
基本設計を作成しましたが、県からは変更の要請があったので設計変更しています。21年1月砂防指定地の行為許可などを取得、同年3月にFIT認定と同じ3月に工事着工、同年11月上旬より試運転が始まり、21年12月に発電・売電事業を本格的に開始しました。
■ サイフォン式小水力発電の特徴と環境改善への期待
設置の南川砂防ダム(南川第1号堰堤⦅えんてい⦆、1990年3月)は二級河川の南川上部に位置し、高さ19.3m、流域面積17km2でダム湖を有しています。砂防ダム直下は普通河川で水利権は問題ありませんでした。
水をダム湖の湖面より高い堰堤の上へ動力なしに取水して流しています。灯油ポンプと同じように、最初に圧を加えるだけで勝手に灯油が流れる仕組みと同じです。最初だけは動力を使って真空にして、水を吸い上げます。このサイフォン式は既存の地形にできるだけ影響を与えず建設できる利点があります。
そこから有効落差16.45mで最大0.99㎥/秒の水を流し、下のクロスフロー水車・誘導発電機を回して発電します。設備利用率は78.1%と高く、昼夜、年間を通じて出力変動が少なく、安定して発電ができます。水車と発電機は欧州などで実績があるJLAハイドロ社(ベルギー)のものにしました。その一方で、ほぼメンテナンスフリーな小規模太陽光発電所に比べて、一般河川を利用した小水力発電のメンテナンスは大変です。ここの発電所では月2回程度地元のメンバーに日当を払って除塵してもらっています。取水口に常設の降りる梯子と作業場を設けましたが、作業に二人がかりで3時間はかかります。こうした日常の保守・メンテナンスは合同会社が行い、電気の保守点検は一般社団法人関西電気保安協会小浜営業所に委託しています。
土砂災害防止を目的するこのダムによって、下流の川底の石に泥が付着して、石についたコケ類がなくなり、アユなどの魚が住めない環境なっています。この発電所から放水を継続的に流すことで、河川の環境改善を見込んでいます。
(下に続く)
■ 市民ファンド集めの仕組み、大阪、京都に出向く
この発電所の総事業費は2億4600万円。小水力は技術、事業主体の設置、許認可手続き、資金調達など地域ごとの課題があります。ここでは幸いに400m先まで電線が通って、接続費用は370万円で済みました。電力会社との系統接続にもまったく問題はありませんでした。
銀行融資については、地元の金融機関は1千万円のみで、日本政策金融公庫は1億2千万円と小水力発電にも支援しています。他は市民ファンが主に占める計画を立てました。おひさま自然エネルギー株式会社(第二種金融商品取引業者)を利用した出資は2種類にしました。A出資は1口20万円8年後に返還、上限150口。B出資は1口60万円16年間で返還。それで募集予定の6000万円が全額集まりました。更に1口5万円の協力金で870万を集めました。協力金の返礼として地域の特産品(希望の5コース、おまかせ、特別栽培米、山里、木炭、若狭牛より選択制)を8年間送ります。福井県の人口は約75万人。そこで事業説明会は地元のおおい町、福井市だけではなく、大阪や京都でも開催。出資は関西圏も多かったそうです。三割近い6870万円を協力金や市民ファンドで調達しました。
年間可能発電電力量は86万1千kWh(一般家庭200軒の一年間の電力)をFIT価格34円(税別)で関西電力送配電に販売、年間約2900万円の売電収入を見込みで、今後20年以内に市民ファンドや銀行からの融資を返済する予定です。
■ 小さな町の4千万円(県半分助成)助成金で、地域活性事業にもつなぐ
建設された場所は豊かな自然に恵まれたおおい町名田庄(なたしょう)地区。昭和初期まで製炭業・林業が基幹産業として栄え、当時は人口7000人以上が暮らす地域でした。昭和30年代以降から高度経済成長とともに産業は斜陽化し人口は約3000人にまで減少、合併後のおおい町の全人口は8,325人です。発電所周辺でも田んぼの耕作放棄地が見られました。
16年2月には、おおい町長を訪問、南川砂防ダム小水力事業を提案、協力のお願いをしました。おおい町も「地域活性事業」として4000万円(内1/2の2000万円は町が県より助成された)を支出してくれました。この助成金は売電利益から1年間200万円ずつ20年に渡り、地域のために使う条件です。「いいかえれば、無利子の補助金ともいえます」が、川の情報誌「ii川」の発行、住民参加の川に親しんでもらうイベントや講演会などの活性化事業、また、流域の森の調査や植林などの「川と森を守る」保全事業にも活用されます。
他にも「事業性評価支援事業」で新エネルギー財団より700万円助成してもらいました。
■ 今後の小水力の展開を阻む国の制度変更
構想ではこの事業を皮切りに、福井県内各地には活用できる水力資源があるので、人材育成と技術を蓄積して様々な課題を克服し、県内候補地に共同事業化をしながら、発電事業を地域活性につなげようとしていました。例えば、建屋がいらないコンテナ型小水力発電システムを用いての経費削減を考えました。更に、次の水力発電所として福井市上味見地区を候補地に挙げていました。
しかし、2022年度から、FIT制度では地域活用要件として、「供給する電気量の5割以上・・・所在する都道府県に供給」、地域一体型の地域活用要件として「地方公共団体が自ら事業を実施または直接出資」など、市民発電所としては逆風となっています。
南川サイフォン式小水力発電は、単なる再生可能エネルギーの市民発電所に留まりません。22年4月16日に見学会を地域住民、出資等関係者向けに開催し、名田庄小学校の3年生が描いた壁画の除幕式も行いました。流域の観光や環境教育の資源にもなることが期待されています。
取材・撮影(@を除く) 2022.5.6 高橋喜宣
初出 「市民発電所台帳2022」
読者の声
・小水力いいねぇ。村を湖底に沈めることもないし。
・こんな光景はいろいろな所で見る事が出来ますね。
→そうなんですよ。日本各地で小水力発電所を作れる可能性があります。再エネ率70%のオーストリアと比較すれば、日本もできると思っています。
その9
●川小田小水力発電所:卒FIT後も、脱炭素と地域振興のため小水力発電を活用、発展
近年、国内において1000kW未満の小水力は広島県芸北町(現北広島町)では20年前からクリーンな水資源を有効利用しようと川小田小水力発電所を建設し、特定供給(自営線)で芸北オークガーデン等地域振興施設に電気を届けてきました。更に、23年8月の卒FIT後、株式会社タクマエナジーに余剰電力を売電し、その後、町内公共施設に再エネの電気を供給する仕組みをスタートさせました。
「旧芸北町において、『どうしてもやろう!』とエネルギー開発に情熱をもっていました。実現まで、約10年間。(国土交通省中国地方整備局太田川河川事務所の)担当者の方からも熱心に相談に乗ってもらい、指導してもらったのも幸いでした」と当時建設に関わった北広島町芸北支所の後藤さんは振り返ります。
00年農村総合整備事業に採択され、同年に中国電力と余剰電力受給(11.9円/kWh税抜き)覚書を締結、01年1月工事に着工、03年3月工事を完成。4月に施設の稼働を開始しました。総事業費13.96億円のうち、農林水産省補助金60%、残りは自己資金と電気事業債等40%でした。発電量約370万kWhのうち施設消費は22%、売電は78%です。農業関連施設まで自営線を約3km引いて送電しています。今もその電柱には芸北町のシンボルマーク付のプレートが付いています。
この発電所はダムを用いず河川水を利用した水路式。近くのダムでは冬に凍ることがあっても、ここは凍ることはありません。排砂ゲート(電動ラック式1門幅2.5m、高さ2.5m)も設置、幅1.5mの魚道も73mにわたって設置しました。川小田野々谷の取水口から、最大毎秒約5tの水を導水路トンネルなどで導き、延長約497.8m、19mの落差によって最大720kWを発電しています。価格面などから、水車はオーストリア製のケスラー社、発電機はスペイン製のアルコンザ社にしました。苦労しているのは除塵。近くの芸北オークガーデンに作業委託をし、手作業で除塵をしてもらっています。
●卒FIT後も、脱炭素と地域振興のため小水力発電を活用、発展 その2
また、FIT制度施行後、29円/kWh税抜きで余剰売電してきましたが、23年8月に卒FIT後の余剰電力の扱いに課題を抱えていました。今まで通り中国電力に販売しても7.15円/kWh税抜き程度。特定供給先送電(自営線)先は4ヶ所、自家消費先送電は4ヶ所ですが、電気が不足することもあります。昨今の化石燃料高騰等による公共施設の電気料金の上昇、脱炭素化に向けた取り組みが求められていることもありました。そこで、町はこの事業を手掛ける会社を募集し、株式会社タクマエナジーを採用。産地のトレーサビリティを証明するトラッキング付非FIT非化石証書を活用することで、透明性の高い地産地消を実現、8.3円/kWh税抜きで売電しています。
「小水力発電は他の火力や原子力発電のような大規模発電に比べ、河川からの流れ込み式や砂防ダムの利用など立地条件に合わせて計画することができます。地域振興策の一環として電気を供給する場合には、非常に有効な方法となる場合が多いです。」
(芸北町発行の発電所パンフレットより)
〇初出「市民発電所台帳2023」
〇取材・撮影 2023.9.11
その10
その10
●黒土川小水力発電所~小水力発電所で、山間地区の課題解決~
*設置者:黒土川小水力発電合同会社 *発電出力:39.6kW *発電量22万kWh/年
2023年3月、兵庫県宍粟(しそう)市の山間部の地域住民が、約8年の歳月をかけて発電所を建設しました。兵庫県の地域創生再エネプロジェクト設備導入無利子貸付事業の水力発電の2つ目の事例となり、県内では六甲川水車水田小水力発電所についで2例目です。
「昔から田んぼの水を引くのが大変じゃった。今や小水力発電所ができて、(用水路の世話を)何もいらんようになって、大助かりだわ」と「黒土川小水力発電合同会社」の阿曽知世巳さん(元警察官)は語っています。
この黒土川(くろつちかわ)小水力発電所は、兵庫県北西部の岡山県と鳥取県に近い山岳地帯の宍粟(しそう)市千種町黒土にあります。ここは、昔から「たたら製鉄」が行われ、名刀と鉄の故郷でありました。しかし、近年、日本中でみかける山間地帯と同じように、過疎化と高齢化に悩んでいました。
■ 次世代に何を残すかというアイデアから生まれ
黒土川公民館にて自治会役員が集まり、地域の活性化や次の世代に何を残せるか、「どうしたらええんじゃろうか」と知恵を絞っていました。そんなとき、「小水力発電所ならどうじゃろう」という話があって、兵庫県の再生可能エネルギー補助事業で30万円の調査費がでるというのです。でも、その締切が後10日位しかありません。「来年にしょうか」「いや、来年は生きとるか分からん。すぐ県に電話しよう」。これが事業のスタートでした。こうして県の令和5年度の「住民協働による小水力発電復活プロジェクト推進事業」に採択されました。
建設予定の千種川水系黒土川には、大正時代に小さな15kWの水力発電所があり、第二次世界大戦までの約20年間運用されていました。当時10wの電球が1-2個しか家庭で使われてなかったため、周辺地域を含む約1500世帯の電気を賄っていたそうです。その「黒土の滝」の落差を利用して建設することも検討しましたが、修験者など地元の信仰の場になっている上、滝の水量が減ることを懸念して、同じ場所での発電を断念しました。それで、滝の下流にある砂防堰堤の下にある農業用水から取水された、農業用水路内の分水槽の堰を越えて溢れる水を利用して、発電用の水利としています。砂防堰堤は土壌が埋まっていて、魚もいないのですが、漁業組合にも話をして了解を取っています。
■ 地元の有志で合同会社を設立、だが、許認可の壁
2019年、合同会社を立上げました。合同会社は10人。60~70歳代を中心として元警察官、銀行員、エンジニアなど様々な職種の経験者で運営しています。Uターン組もいましたが、ほとんど高校生からの友人でした。でも、まったくの素人でしたので、例えば、書類をもっていくと、「鑑はありますか」と言われても「何のことか分かりません」。ある時は「分かる人を連れてきてください」と言われたこともあります。
そんな中、県の担当者から水力発電所に実績のある有限会社イー・セレクト(本社:京都)を紹介してもらい、事業化に向けた指導をしてもらうことにしました。また、建設後の維持管理の為、建設して終わりではなく、社長の岡山秀行さんも合同会社のメンバーになってもらいました。更に、多くの見学者を受け入れる為に、Iターンの若い同社社員が常駐し、黒土の空き店舗を利用してサテライト・オフィスを開いてくれました。また、同社は「黒土水力発電所新聞」を発行し、近隣や店舗、近くの工業団地にも配布して情報発信にも勤めています。そのオフィスは黒土川小水力発電合同会社の会議室としても活用されています。
しかし、コンサルタント任せではなく、事業計画に当たっての黒土川の流量調査は、教わって、自治会のメンバーが川の中に入って実施。17年8月から季節に関わらず2週間に1度、雪の降る冷たい川の中でも1年間続けました。そんな調査を重ねるうちに、旧発電所の遺構も発見し、小水力発電所を建設して、故郷を盛り上げたいという想いを強くしたそうです。
大変なことのひとつは行政への認可申請でした。発電所までの有効落差は50.1m。配管を通すため林道なども検討しましたが、道幅が狭い生活道路でもあり、メンテナンスのことも考えて、川沿いの田んぼのあぜ道の土中に埋設することにしました。地権者を訪ねて協議を重ねましたが、大変なのは農地転用許可が必要なことでした。「でも、取水口からここを見てください。全部耕作放棄地じゃよ。いや税金を使こうて整備したけぇ、休耕地といわなりゃあならんなあ。あはははは」と阿曽さん。訪問の日、軽トラできてくれ、当たりの草刈りをしながら、語ってくれました。
続く
■ 発電所の特徴、先進国ヨーロッパ各国の良製品集め
配管は耐久性が高く、柔軟性がある高密度のポリエチレン管を使用。大きな石が山からゴロゴロ落ちるし、50年以上の耐久性のあるものを選びました。
発電所設備の特徴は、西ヨーロッパの良製品を使ったことです。小水力発電所に特化した水力土木コンサルタントの会社であるイー・セレクトは、小水力発電所の先進国であるオーストリアの水車メーカーの代理店も務めています。
水車タービンや水車コントロール盤はオーストリア製で流況に合わせてオーダーメイドに設計されています。遠隔装置はよく英語で表されているのを見かけますが、日本語仕様に変更されています。
「設備の中で最も目を引く」のがイタリア製の取水装置です。小水力発電の難しさの一つは除塵です。川の中には多くの草木が流れてきます。でも、採用した装置を使うと除塵機や沈砂池の必要性がなくなり、設置スペースやメンテナンス頻度を大幅に削減できます。取水設備は「コアンダ効果」というものを生かした設計です。水は曲面を沿うように流れる性質を利用し効果的に取水ができます。更に、バースクリーンと横目スリットスクリーンによって0.6mm以上の砂や枯葉などのゴミはそのまま下流へ流されます。このコアンダ取水方式は、現在ヨーロッパを中心に普及してきていますが、日本での導入例はまだ少ないです。
オーストリアの水車メーカー・Machinenbau Unterlecher Gmbhがこの地を建設中に訪問し、「大変適切なレイアウト設計で、いい発電所になると思います」と語っています。
■ 総工費8,000万円をどう集めたか?利益の3%を地元に還元→環境省の導入事例から
総工費(設備設計・施行)は8,000万円でした。一度も停止することなく、全量売電によりFIT価格34円/kWh(税抜き)で関西電力に販売しています。売電益の3%を地元の自治会に、残りを森林保全や地域活性化に還元する予定です。
資金計画を検討する上で助けになったのは、兵庫県の「地域再生『再エネ発掘プロジェクト』(設備導入無利子貸付事業・20年間)に21年に採択され、3,000万円を得たことです。翌年、(公財)ひょうご環境創造協会整備導入補助金2,000万円も申請し採択されました。市からも「宍粟市・設備導入補助金」200万円を得ることができました。残りを地元の西兵庫信用金庫と日本政策金融金庫から借りました。
総工費以外では、兵庫県と宍粟市補助金を活用し、流量調査・事業性評価業務を行いました。
「故郷に戻り、気がついたら子どもがいなくなり、通学の声が聞こえんようになった。人の集まる場を作ろうと喫茶店を開いたが、うまく行かなんだ。そして、この水力発電の事業と出会うた。人のため思うとる。自分のためなら、ようやらん。この事業が50年、100年まで続き、水力発電所のモデルケースになるなりゃあと思うとる」と阿曽知世巳さんは抱負を述べています。
取材・撮影 2024年9月10日 高橋喜宣
初出「市民発電所台帳2024」(約1/3の縮小版)
NPO法人市民電力連絡会(地球環境基金の助成金)をいただいて取材しました。
参考資料
○黒土川小水力発電合同会社
https://www.kurotsuchi-hydro.com/
○全国小水力利用推進協議会編集「小水力発電事例集2023」p66~p68
「黒土川小水力発電所~住民主体で、小水力発電を実現~
https://fukushima-wasurenai.jimdofree.com/5-小水力発電所その2/
に、この発電所など多数の小水力発電所の事例を紹介しています。