はじめに
2011年の東日本大震災によって、更に22年からのウクライナ戦争で、環境とエネルギーの重要性が加速するようになった。日本の報道でも、近年、日本の地球温室ガスの報道の解説に「欧州に見劣り、鍵は再エネ」[i]とようやく報じられるようになってきた。欧州に見劣りする日本の再生可能エネルギー(以下、再エネ)のあるべき姿とは何であろうか?
そこで、例えば「環境先進国・ドイツをめざす」[ii]ということになるかもしれないが、本稿ではそれに疑問を投げかけている。ドイツが悪いということではない。ドイツと日本の違いを比較検討する必要を感じている。そういう点で、ドイツだけでなく、日本とオーストリア、フランス、スイスなどと比較し、それぞれの基本的な考え方を探ることにした。更に、「日本はドイツやデンマークとは違う。ここでは一定の方向に風が吹いているので、再エネには風車がマッチしている。だが、日本の風は違う。日本独自の再エネを探さねばならないだろう」と2016年2月に筆者がデンマークを視察したときに地元の議員から言われた。本稿はその回答を得ようと試みた。
また、欧州の再エネ事情を考える上で、フランスの原発と再エネ政策を考えなければならない。日本においては数少ないが、『地球温暖化との闘い』[iii]で原発必要論を真剣に唱える学者もいる。原発は、本稿の主要テーマではなく、原発の問題点については多くの著作に譲るとして、地球温暖化で原発に新たな障害が生まれているフランスの現状目標を論じた。更に、日欧の地理的文化的な比較にも挑んだ。
とはいえ、日本の報道や教育、著作では再エネの最新状況が分からないこともある。例えば、スイスのバーゼル・シュタット準州ではすでに100%再エネ電源供給が達成された。その上で、次に脱炭素化を目指しガス網の完全運転停止を目標として動き出した[iv]=第1章5参照。この州の再エネの最大の電源は水力発電である。このような報道はされているのだろうか。例えば、放送大学の「改定新版 エネルギーと社会’19」第9回「再生可能エネルギー」の講座では「再エネは大規模な小水力発電を含めても10%も満たさない」。これに反して、現状は23年度の日本の電源構成は25.7%[v]と初めて1/4を超えている。
小水力の先進事例をもとめ、23年にオーストリアに視察に行った。そうした内外で直接取材した伝聞も本稿では多く取り入れた。
以上のように、本稿は、日本独自の再エネ普及案を求め、あまり注目されてこなかった水力発電の良い面と悪い面を含め可能性を探っていく。
[i] 2024年7月15日付『神奈川新聞』「温室効果ガス 新目標60~66% 政府さらなる上積み焦点」の記事の解説
[ii] 田中信一郎『信州はエネルギーシフトする―環境先進国・ドイツをめざす長野県』(シナノ出版、2018.1.22)のタイトルから引用
[iii] ジェイムズ・ハンセン(監役者:枝廣淳子)『地球温暖化との闘い すべての未来の子どもたちのために』(日経BP社、2012.11.26)
[iv] 2024年6月28日開催の講演会「バーゼル・シュタット準州の気候・エネルギー政策 」Matthias Nabholz マティアス・ナブホルツ (Leiter Amt für Umwelt und Energie 環境・エネルギー局長)の資料から
[v] 環境エネルギー政策所2023年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)https://www.isep.or.jp/archives/library/14750
概 要
テーマ:今、なぜ小水力発電なのか ―日欧の地理的文化的比較から―
本稿は5項目のテーマを主として、脱炭素社会を目指すためには、日本の独自の再生可能エネルギーを求めて小水力発電所に焦点を当てたものである。そのため、日欧、とりわけドイツ、フランス、オーストリア、スイスの4ヶ国の再エネ事情を地理的文化的に比較した。その結果、それぞれの弱点や欠点を克服しながら、独自路線をとっていることを論証し、どの国も太陽光発電が主流でないことを明らかにして、日本の再エネを見直す必要があることを唱えた。
第一に、日本の再エネは太陽光発電が主流のままで良いのか? 太陽光発電は日本の再エネ普及に多いに貢献し、まだまだ可能性はあるが、稼働率が低く、蓄電池や水素利用を活用しても、このままでは脱炭素社会は達成されないことを明らかにした。
第二に、日本独自の再エネ普及案を示すにはどうするか? よく「ドイツに学べ」と称賛されるドイツにも弱点と欠点がある。原発先進国フランスは、同時に火力に頼らない優等生であるが、原発の政策に陰りがでていることを示した。オーストリアは手本となっても、200年の伝統の差と個人力の差は日本人には埋めきれない。スイスは冬の電力不足という欠点を克服できない。それぞれの国の事情を論証し、日本はどの国とも違うことを明らかにして、独自の再エネ普及の必要性を論じた。
第三に、再エネ普及には、環境を破壊しない小水力発電が必要ではないか? 日本には山、森、水という資源があるが、そのままでは活用できない。日本人が数千年間守り続けた森と農業資産を生かし、近代作られた砂防堰堤について、実例を含めて可能性を検証した。しかし、一方においてダム開発には環境破壊があることを裏付けた。
第四に、昔から続く農業社会と山間地域コミュニティが、小水力発電所を建設することによって、地域課題の解決に役立つのではないか?
戦前の地域コミュニティが市民出資で小水力発電所を作っていたことに着目し、地域住民主導型小水力発電所の未来ある可能性を実例で論証した。
第五に、再エネは何でも良いのか、制度上の欠陥があるのではないか?
再エネには、悪い再エネと良い再エネがあることを本稿では示そうとした。また、全国に広がる再エネ嫌悪感は再エネ自身にあるのではなく、日本のFIT制度に代表されるような制度上の欠陥にその原因があることを論証した。
【読者の声】継続中
・小水力の必要性は、私も同感です。戦時復興は大規模水力のおかげで成し遂げられましたか、昨今、あまり水力に注目しなくなりました。来年(2025年)から再エネ政策を〇〇振興との しながら研究を進める予定です。その際は国内の小水力事例などご教示しただければ幸いです。
はじめと第1章について
読者の声
はじめと第1章1-1について
・興味深い記事です。
太陽熱発電は気力発電なので大量の水が必要です。適地365日晴れの砂漠と豊富な水の供給は二律背反になります。空冷という方法もあるにはありますが、無駄にでかくなるし、エネルギー変換効率がとても悪くなりペイしません。
スイスやドイツの地域エネルギーは中世の職業別ギルドが継承され、地域熱供給も含め自然に立ち上がってように思います。例えばヨーロッパの労働組合は職業別組合で、日本のような企業別組合ではありません。
日本の地域コミュニティはギルドのような職人一家が生活の糧を得るためのものでなく、住民が安全に生活できることが原点なので、その辺の意識づけが地域エネルギーの立ち上げの度合いに差が生じていると思います。
日本は地域熱供給でなく個別供給なのは温暖な気候によると思います。バーゼルは夏も涼しく冬は寒いので地域熱供給に向いています。日本の夏は、熱供給は不要ですし日本は個別供給可能な小規模エネルギー機器を大量に製作するのが得意な国民でもあります。日本は地震の多さも地下媒体パイプの敷設復旧のリスクになります。
水力発電は河況係数の度合いにより向き不向きがあります。日本は河況係数が海外に比してベラボーに高いので信じられないかもしれませんが不適です。環境破壊のダムを造って河況係数を下げないと難しいです。
なので、ヨーロッパの風習や気候により醸成されたシステムを日本にそのまま持ち込むのは困難かと思います。
参考になれば幸いです。
→(高橋) いつも専門的なアドバイスをありがとうございます。だけるだけ、これから展開する論文に反映したいと思っています。
「ヨーロッパの風習や気候により醸成されたシステムを日本にそのまま持ち込むのは困難かと思います」というのが、本稿の趣旨です。
だからこそ、現地の実態調査が必要となります。国内は今年も兵庫県と鹿児島県に取材に行く予定です。こうした取材の中、日本と海外の比較検討を、本稿では試みています。
ただ、スイスやフランスに行っていないので、よく分からないことが多いです。例えば、『再生可能エネルギーと国土利用』という本を1冊読んでも、ドイツと日本の自治体の例を上げていますが、なかなか把握できません。
例えば、ドイツの再エネの50%以上が市民ないし農民所有と本に書いていても、その脚注では12年の政務次官とあります。2016年出版の本だからでしょうか? よって、使えなくてどうするか悩んでいるとこめです。また、日本の市民発電所の割合は不明のまま。大資本や海外資本がほとんどのようですが、その根拠となる資料が見つかっていません。
国内の小水力発電の例でも、本では成功例と紹介しているところで話を聴いたら、うまく行ってないということでした。本はあくまでも参考程度。されど、自分の伝聞だけではどうか、ということもあります。
「環境破壊のダムを造って河況係数を下げないと難しいです。」
この対策として、日本は6万基の砂防堰堤があります。その内約5200基に小水力発電所のポテンシャルがあります。しかし、現在あるのはわずか60基程度。もっとも私はその3基しか現地調査をしていません。「第2章 小水力発電所の未来の可能性 ―過去から現在、大規模開発の限界と環境破壊」で論じるつもりです。
1-1 地球温暖化解決の鍵となる再エネ、でも偏った日本の再エネ事情
(2)固定価格買取制度の歪みが生んだ再エネ乱開発と小水力発電 について
一見再エネに理解あるかのような面ヅラしながら、それを攻撃し、ましてや「全国メガソーラー問題中央集会」を引用とは呆れますね。最も悪質なタイプです。
彼らが再エネに対して拡散したデマや陰謀論について指摘せず、その会長がどんな人物かを記さない(あるいは無知)とはあなたも同類とみなします。
この投稿を読んでいる方は、この高橋 喜宣氏の文章を真に受けてはいけません。
→(高橋) コメントありがとうございます。
ここで論証したかったことは、再エネの否定ではなく、「大都市資本だけでなく、多くの外国資本が日本に参入して日本のFIT制度の隙間を狙って開発をしてきた。その結果、山を削るなど大規模な環境破壊型再エネ開発につながることになった 。」です。
再エネのいい面はこれから書いています。
論文にはいい面と悪い面を比較しながら、論じる必要があります。青年(実際は高齢者)の主張ではないからです。
私は実際に川崎の2団体で5ヶ所の太陽光発電所に関わり出資して建設してきました。パリバリの脱原発と再エネ普及派です
これからドイツ、フランス、昨年訪問したオースリア、そして、スイスと書き進めています。日本と比較しながら。
確かに谷さんのいうこともあり、その写真は削除しました。本文にはないことですから、無理に3枚にしないことにしました。
第2章 小水力の未来への可能性 ―過去から現在、大規模開発の限界と環境破壊
2-1 水力発電の価値 その1 について
・落差 流量で水力発電量は決まります。維持流量を使用して再生可能エネルギー発電は素晴らしいとと思う。
負の資産から出来た物でしょうか。
→(高橋)コメントいただきありがとうごいます。
負の遺産とは思っていません。未来の残すための遺産の活用でしょう。
ただ、多くのダムはそうではありません。今後ダム批判論が登場してきます。
・流量は断面の面積と流速をかけたものだけと…。函館に買った家の側に鮭が来なくなった川があって発電しようと思ってます。
電気も地産地消っす。送電エネルギーのロスないし。しかし、偏微分を使う水理学(流体力学)忘れたなぁ。
アイスランドは20%が地熱で80%が水力、つまり100%自然エネルギー日本も地熱やりゃあ良いのと思うけど、ゼネコン儲からないから…。多少やってるとこもあるけど、地権も面倒だし、しかし資源はコノ国は無尽蔵かもしれない。
→(高橋)今後、いろいろ可能性がある実例を紹介します。ご参考になれば、幸いです。
・水力発電は同期発電機(シンクロナスジェネレータ)でないと、負荷追従・ガバナフリー制御ができません。日本の電力会社はこの調整力機能を求めているフシがあります。
知り合いのネパール人も自国の発電は水力がメインで同期発電機といってました。小水力は太陽光と同じ非同期電源(インバータ)なので、調整力機能がないのと規模が追えないので送配電会社は作りたくない事情があります。
・2-3 実例 八ッ場ダムの開発と問題点 について
・山地や田畑を切り崩してのメガソーラー設置には私も反対ですが、『市民電力』(小型太陽光設置、小型水力発電)はもっと増やして行かなければと思っています。
ダムの建設反対の裏にはこんな事実があったと知りました。建設が進まないにしろ地元運動が賛成にしろ反対にしろ、知識と真実を知ることが必要だと思いました。
→(高橋)コメントいただきありがとうございます。
読者の声として、ホームページに匿名で引用させていただきました。
「知識と真実を知る必要」が大切ですね。しかし、これが難しいことでもあります。
誰かの言説や本に書いていることが本当かどうか分かりません。昔正しいとされていたことが、今間違いとされることもあります。ましてやSNSはなおさらで、フィルターバブル(注1)にもなりかねません。
だからこそ、私は実際に現場にいって、探っています。でもその現場も見る場所によって、確証バイアスがかかるかもしれません。
よって、このように長文で公開して、皆さんのご意見を伺いたいと思っています。
注1
https://www.trendmicro.com/.../e/expertview-20240520-01.html
第3章
・いくら良いものでも、環境破壊に繋がったり、住民の生活環境の悪化を招くものではしょうがない。そこは独りよがりにならないものを考えていかないとなあ。。。
で、お勉強続きのメモ。
清川村のような山間地に適した自然エネルギーは、落差によって何度でも発電出来る水力が適切なはずなのだが、実際には法的なものから環境的なものまで、ハードルは高い。
・そこに住む人の『迷惑』になってはならず、共同体に『利益』を生み出すものでなければならない。ダム建設で潤った自治体に、自立的な産業を生み出す道は険しい。